2nd movement 皇帝が生まれた日

24/28
前へ
/67ページ
次へ
 あたしも人のことは言えないが、相当な不信心者だな。ベアトリーチェは王侯貴族の割には神への信仰が薄いイールソーに僅かながらに好感を覚えるのであった。 ちなみに、王侯貴族は「自分達は人と神との間に生まれた英雄の末裔」であると信じ切っているために、信仰厚い者ばかりである。 「この事実を発表したところで、元老院は信じないでしょう…… 聖典の言うことは全て真実と思い混んでいる頭の硬い老人達ですからね。そうそう、今日は人の成り立ちについて話しにきた訳じゃないんですよ。子胤の中のオタマジャクシがなければ、いくら男女で交わったとしても子はなされないのですよ」 「それがどうかしたのかしら?」 「男が子胤を出すためにはある程度の年齢が必要です。大体、十二の齢からでしょうか。女性の方も『子を育てる宮殿』より(きざし)の血が流れる齢も似たような頃になりましょう」 「王侯貴族様は血を繋ぐことが使命、こう言ったことも学校で習うのかしら?」 「学校によりますね。校長の神への信仰が厚ければ全く行わずに家任せですし、信仰薄ければ詳しく…… と、言った感じです」 「随分と、回りくどいお話ね? いい加減に本題を切り出したらどう?」 「これはこれは失礼しました。何十人もの男の臣民に恥ずかしながらに『ご協力』を頂いて子胤の方を調べていたのです。ああ、ボクはまだですよ? その兆である毛すらも生えておりませぬ。近くともボクが調べた大人の子胤は、全員オタマジャクシはおりましたよ? ただ『一人』を除きましてね」 「どちら様かしら?」と、ベアトリーチェが尋ねると、イールソーはニヤリと口角を上げて笑いながら淡々と述べた。だが、ベアトリーチェにはその答えは分かっていた。それ故の焦りを隠すため拳を握りしめていた。その拳の中は指の間より汗の玉雫が垂れる程に滲むのであった。 「皇太子なんですよ。どこからか見微鏡の噂を聞きつけて、実物を見たいと私の離宮に尋ねてきたのですよ。大層面白がっておりましたよ? 葉っぱの模様(葉脈)がハッキリ見えるとか、水の中にも小さな虫(ミジンコ)がいるとかと子供のように燥いでおりました。でも、そんなことはどうでもいいんですよ。何を考えたのか『自分の子胤を見てみたい』とか言い出したもので、見微鏡で見せることにしたのですよ」
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加