2nd movement 皇帝が生まれた日

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「はぐらかさないで。あなたの目的は? あたしのことを黙っているんだから、何かがあるんでしょ?」 「目的は譲位かな。この子…… ティキランが皇帝になった後の次の皇帝に『ボク達』の誰か、もしくは、その子供を皇帝に指名して欲しいんだ」 ベアトリーチェはイールソーの言う「ボク達」がアインズルド、ワンステイ、イールソーの三兄妹であると察した。そして、その子供を皇帝に指名して欲しいと言うことの目的は唯一つ! 「アルビナカンビオレ様の血筋を皇帝に戻したいのね」 それを聞いたイールソーはパチパチパチと思わずに拍手を叩いてしまった。やっぱりこの人は賢いやと感心しながら、拍手の音で起きてくずりにかかるティキランを再び寝かせにかかった。 おう、よしよし。イールソーがティキランの頭を撫でると、すやすやと寝に入った。 「そうだよ。今の女帝のニセアーニャは『手練手管』だけで公妾の立場に滑り込んだ卑しい女。あの女の自己顕示欲と虚栄心はいつかこの国を傾国へと導く、とてもではないが国を治める器ではない」 「それはあたしも分かるわ。平民の出と言うだけで、人扱いされないもの…… この子だってあたしの…… 平民の血が混じっていると言うだけで、あたしが飲む紅茶の茶葉に水銀を入れて殺しに来たわ」 水銀、紅茶、その二つの言葉を聞いた途端にイールソーの顔が驚いたものへと一変した。 「あの女狐、母に飽き足らず、生まれる前の子まで手に掛けようとしたんだぁ」 「もしかして、暗殺されたの? あたしの聞いた話ではアルビナカンビオレ様は病死だと……」 イールソーは首を横に振った。そして(おもむろ)に口を開いた。 「母のアルビナカンビオレは紅茶が好きだったんだ。我ら三人が腹にいる間も良く飲んでいたそうだよ。私も四人目の弟か妹が生まれる前にもその腹を撫でていた…… その間も紅茶を啜っていたのだ。茶のニオイすらもハッキリと覚えている」 「紅茶……」 「突然、紅茶の香りが変わったんだ。聞くに、ニセアーニャが美味しい茶葉があるからと仕入先を強引に変えたってさ。それ以降、体が震えたり、体が痺れたり、口が回らなくなったりと、明らかに体調不良を訴えるようになり…… 最後は子供を死産すると共に亡くなってしまった」 「……確かに水銀中毒の症状ね。百人隊だった時に海を渡る時に海賊の船に乗せて貰ったのだけど、海賊達は水銀を万能薬と勘違いしていたのか、今言ったような症状に苦しむ者がいたわ」 「まぁ、腑分け(解剖)をすればわかったかもしれないけど…… アルビナカンビオレは皇帝の妻、死んで尚切り刻むような真似はしたくないと、即座に荼毘に付されて、歴代皇帝の墓へと入ったよ。父であるボード皇帝も明らかに不審な死だからと腑分けを検討したんだけど……」 「あの女が止めた。ってことでいいのかしら」 イールソーはコクリと頷いた。その顔には悔しさが滲み出ていた。
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