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3rd movement 女帝果つる日
春が終わり、初夏を迎える頃…… ボード帝国国境に在する青々とした麦畑に大砲の音が響いた。青々とした麦穂が轟音で激しく揺れた瞬間、赤煉瓦作りの保存庫が灰燼と帰した。国境にて小麦農家を営むクラトスビアーは灰燼と帰した保存庫の前で呆然としていると、国境より、兵士が歩兵と騎馬隊と砲撃隊と共に編隊を組んで迫りくる姿を見た。
攻めてくるのはラブリバー国、昔はボード帝国に戦争を仕掛けてきたが、ラブリバー国の末端の王侯貴族の娘を政略結婚で嫁に出して以降は友好関係を築き上げている。
その友好関係が、ラブリバー国の侵攻によって、たった今崩れ去ったののである。
本件は直ちにボードウィン城に報告、直ちに城の会議室にて会議が開かれることになった。
会議の参加者はカミーリア皇太子、ベアトリーチェ皇太子妃、五人の元老院、十二人の国務大臣達。会議室に女帝ニセアーニャは不在である。
元老院長老はカミーリアに尋ねた。
「女帝陛下はどちらにお見えで」
カミーリアは顔を真っ青にし、歯を震わせながら答えた。
「母上は…… ここ最近は寝室で寝たきりです。医者の見立てでは…… 腸の病であると。しかし、本会議の内容の承認だけは行うとのことですので」
「で、あるか。実質、我々で決めなければならぬと言うことですな」
カミーリアは首をクイと傾げた。この会議で「何」を決めるかがわからなかったのである。
「殿下。戦になるやも知れません」
「い、戦ァ!? もう魔王もいないのに平和なんだよ!?」
そう言えば、この皇太子は世界が魔王の脅威に晒されていた時は『疎開』と称して逃げ回っていた臆病者だったな。金稼ぎは上手いようだが、戦に関しては素人以下。下手をすれば遙か東方に生息するという猩々たる猿の方が何もいわないだけマシと言うものだ。平和な世界と言うものは子供が読む御伽噺の中にしかないと言うことを知って欲しい。元老院長老はカミーリアに現実を突きつけた。
「平和が続けば、いつかは戦争も始まりましょう。そのいつかが今訪れただけなのです」
カミーリアは現在の状況が書かれた巻物を広げた。現在、ラブリバー国の奇襲によって襲撃を受けたことにより、その地域である国境近辺はラブリバー国によって占拠されている。
ラブリバー国の国境線が僅かではあるがボード帝国を侵したのである。
つまり、領土が侵略されたと言うことになる。
カミーリアは元はやり手の大富豪。大富豪としてのビジネス手腕に則り、小を切り捨て大を得る決意をした。
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