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「自動運転の研究頑張ってね。一番下の弟もね、車が大好きであなたの大学に行きたいって言ってるの。」
「へぇ。」
たった今自動運転を否定していた自分を恥じた。まだ小学生の弟が志高く頑張っているというのに。
「うち貧乏だからね、私が家計に入れているお金も食費や生活費で消えてしまって、一つ下の弟も大学には行けなかった。でもね、私絶対頑張るんだ。あの子はやりたいことがあるんだもの。だから学費は私がなんとしてでも出して、大学に行かせるの。」
右近さんは右折が苦手。それは運転技術ではない。自分を出すのが苦手なんだ。弟の夢を叶えたい。それが右近さんの姉としての夢だとしても、右近さん自身のやりたいことが本当はあったんじゃないのかな。それを言えないくらいずっと頑張ってきたのかな。
ぼくは自分の環境が突然恥ずかしくなった。親に学費を出してもらい、一人暮らしをさせてもらっている。親に買ってもらった車に乗って、女の子をデートに誘い、自分の研究をないがしろにしようとしていた。
今は告白する時ではない。それがわかったぼくは変わりに、手伝ってもらった実験を必ずまとめて論文として発表することを誓う。彼女の弟がうちの大学に来るときに、ぼくが講師にでもなれてたらいいなと思う。そしてその時は義理の弟として一緒に研究をできたらいいな。
だから、今はまだ告白はしない。右折が苦手だけど自立した右近さんと同じ位置に立てるその日まで。
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