祝日が終わる日

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今日のみなみは地味なスーツを着ている。相変わらず完璧だ。少し緊張しているようで顔が引き締まっている。今日行くクライアントの案件が決まれば億の金が動く。だから、部長であるみなみが直接動くのだ。そこに僕が絡む理由は、今手があいているのが僕しかいないからに他ならない。 僕らはお互いの身なりを確認し、資料に不備がないかも確認しクライアントの入っているビルへ向った。まるでホテルみたいなエントランスに駅の改札みたいなものがある。僕らは受付に向った。 受付が担当者に内線連絡をするとゲートが一箇所開き私たちはそこから指定された10階の応接に向う。 商談は1時間の時間を貰えている。みなみがメインで話をし僕はみなみの話を援護する。 相手の表情を見る限り悪い印象はない。 僕らは無事に今日を終えた。結果は1週間後だ。あれこれ考えても仕方がない。僕らは商談を終えた後別々の動きをした。僕はまた御用聞きだ。 みなみは事務仕事のため帰社した。 僕はクライアント回りの途中で新人に会った。僕から離れた後目当ての指導者に見て貰えたようだ。 最初の1ヶ月は営業成績も伸びた。本人も自分の思うようにできる事に喜んでいた。しかし月日が経つにつれ成績は伸び悩んできている。 僕は少し心配をしていた。彼女の指導者はあまり評判の良い人間ではないからだ。どこからかお客様を獲得してくるが、獲得したお客様のフォローは別の営業に押しつけて自分ではやらない。もし押しつけられた営業が失敗をしたら、クライアントとの揉め事を一時的に解決し回りの評価をあげるような節がある。でも営業という仕事は数字がものをいうことは間違いない世界だから彼は英雄のように見えるのだ。 僕は彼女に挨拶をした。 彼女は僕を見ると突然涙を流し始めた。 僕はクライアント周りがあと2軒残っていたから、移動しながら彼女の話を聞く事にした。 彼女の予定はあと一箇所クライアント周りが残っているみたいなので僕はそちらにも同行することにした。僕は自分のクライアントには今日急用ができたからまた時間を作りしっかり対応すると伝えて短めの時間でその場を去った。どちらのクライアントも快く了承してくれる。ありがたい。 彼女が泣き出した理由は、何をやってもうまく行かないから。しかもクライアントから身体の関係を求められていて、指導者に相談をしたところ一度抱かれるくらい我慢しろと言われ何日も悩んでいるという。そのクライアントとは今日夜アポがあるそうだ。僕はみなみに連絡をし彼女の状態を説明した。 僕とみなみで夜のクライアントは担当することとした。 彼女のクライアントはとても良い人だった。問題は彼女にある。クライアントの要望を優先せずに自分の要望を優先させた発注をし納品したのだ。 クライアントは、いらないからどうにかして欲しいと彼女に伝えても彼女の耳には何も聞こえず、100万円くらいの安い買物で良いものが手に入ったのだからと言い、何もしないで放置したのだ。 僕はクライアントに謝り全品回収し、クライアントの要望の品は早急に用意する旨を伝えてた。実際1時間後には品物の交換は済んでいたし、価格もかなり下げて提供した。クライアントは、品物が届くと僕に連絡をしてくださりお礼をしてくれた。 僕は一旦帰社し、みなみと合流してクライアントの元へ向った。今日は残業確定だから妻には連絡をした。妻は文句も言わずに気をつけてと僕を送り出してくれる。 彼女がクライアントと待ち合わせた場所はホテルだ。僕らは指定されたホテルの部屋に向った。 クライアントは、新人ではない2人が来たことにびっくりしていたようだが、僕らは構わず話をしていく。まずはビジネスの契約をし、次にみなみは涼しい顔で念書を出した。 「この念書はご契約いただきました皆様にご記入頂いております。昨今お客様のように優良な方ばかりではございません。私どもも、人間でございます。何か犯罪に巻き込まれる、例えば身体の関係の強要などあっては、安心してビジネスが出来かねます。よって弁護士とも相談しこのような形を取らしていただいております。」 クライアントは、念書にサインをした。 僕らはホテルを去った。 ホテルを出てしばらく歩くと、みなみは安心したのか笑顔を見せた。 「飲みに行かない。」 みなみと僕は個室のあるファミレスに行った。 ビールを呑み安いつまみを食べながらみなみと僕は今日のことを話しあった。 「正直な話、今回はうまくいったから良かったけど、相手によってはかなりやばかったわよ。 彼女焦ってしまったのねきっと。指導係また変えたほうが良いかしら。悩むわ。」 「指導者は変えない方が良いよ。コロコロと変えるものじゃないし、誰と仕事をしようと社会人である以上プロになっていかなければならないしね。 誰がじゃなくて、自分がどうするか腕の見せどころだろう。だから、変えないで周りがフォローするというのはどうかな。」 「指導者が悪いことは事実よ。あいつは、人として間違っている。自分を良く見せる技術はあるけど、他人をないがしろにする傾向がある。 許せないわ。そのうちあいてのしっぽを見つけて必ずや処分してやるわ。」 僕らはこの調子で仕事の話をし帰宅した。 しかし今日は疲れた。みなみと仕事ができたことは嬉しいが、トラブルを解決することは体力も気力も奪われる。今日は、家族と一緒にいたい。 僕は無意識に安心する冴子の顔を思い浮かべ、まっすぐ帰宅し冴子を抱きしめた。冴子からは、柔軟剤の甘い香りがした。安心の匂いは実に心地よかった。
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