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「優美、お父さんと会えた?」
「うん。結婚のことも話せた」
優美は屈託なく笑い、グラタンをスプーンですくうと慎重に息を吹きかける。
「熱っ!」
「大丈夫?ほら、水」
お冷やのグラスを慌てて手渡すと、すぐにそれを飲み笑う彼女。
「ありがとう」
「いーえ」
俺はもうすぐ彼女と結婚する。
実はなんとなく、出会った時からそんな気がしていた。
優美はどこか特別な空気を纏っている気がする。
達観のような、潔さのような、心の奥に静かに潜む凛とした魅力だ。
それがなんなのか、仲が深まるにつれわかってきたように思う。
「お父さん、目が点になっちゃってさ。でも喜んでくれたよ。なんたってお母さんに会える口実ができたんだから」
彼女は両親のことを愛している。
あまりにも愛情深いから、離婚していたと知った時はびっくりした。
そういうところが、彼女に惹かれた理由のひとつだ。
「お母さんは乗り気じゃないみたいだけどね、私の晴れ舞台だから見せてやってもいいんじゃない?って」
彼女のお母さんにも何度か会ったことがあるけれど、優美にそっくりな人だった。
離婚しても相手を恨まずに、きちんと子供と会う機会を認めてくれるような懐の深い人。
そんな人だから、優美は天真爛漫に育ったのだろう。
「俺もお父さんに会うの楽しみ」
そんな二人が愛したその人は、どんな男性なんだろう。
冗談交じりに浮気性だと聞いたから、正直言ってあまり良い印象はない。
だけど優美の話の中で彼は、いつもいきいきと生きている。
きっと憎めない人なんだ。
彼を許してしまう彼女の大らかさが、何よりも結婚をしたいと思った決め手かもしれない。
「なあ、優美。もし俺が浮気したらどうする?」
ふと、そんな意地悪を言ってしまった。
彼女はさめたグラタンを頬張りながら、しばらく考え込む。
「……許しちゃうかな。お母さんの娘だし」
俺は笑って、そのあと真剣に彼女を見つめた。
「俺は浮気しないよ。誓って」
「うん。わかってる」
彼女のこと、これ以上傷つけるわけない。
「でもさ、私の方が浮気しちゃうかな?お父さんの娘だし」
「大丈夫だよ」
君は失う悲しみも怒りも、それを許す優しさも知っているから。
「いつか子供ができたら、家族みんなでファミレスでご飯食べようね」
「食べよう。優美のお父さんとお母さんも呼んで」
大丈夫。君も、君が愛する人達も、みんな幸せになれるからね。
結婚式の相談をしながら、俺達はデザートのメニューを広げた。
おしまい
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