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「……あなたみたいな人、初めてじゃないの。こうやってファミレスに呼び出されるのも。もう何回も」  彼女は驚くほど好意的に微笑み、脱力したように言った。  開き直る、というように。 「でもね、結局あの人は戻ってくるのよ。私に跪いて、やっぱりやり直したい、君じゃなきゃだめだって。その瞬間だけは、私生きている心地がした。最後に選ばれるのはいつだって私なんだって。……でももう」  彼女は両手で顔を覆い俯く。 「……もう、疲れた」  絞り出すような悲壮感の滲んだ声が胸をついた。  まるで旧友に悩みを打ち明けるような姿だ。  何も手にしていなかった幼い頃に戻ってしまったかのように、恐ろしいほどの不安が押し寄せた。  ちっとも嬉しくない。  彼を手に入れたはずなのに。 「いいよ。別れる。あんな人、もう要らない」  優人さんは、誰かの要らないものなの?  私が手に入れたものは、無価値なの?  血の気が引いて、心細さに震えが止まらない。 「……大丈夫?」  あろうことか、彼女は私の震える手を握った。  手の温かさに驚き息が止まりそうになる。  まるで津波のような、何か大きくて恐ろしいものが勢いよく押し寄せ、全て飲まれてしまうような気持ちがした。 「ねえ、これだけは言っておく。……いずれあなたも私のようになるよ」 「え…………?」 「あの人は病気だから。きっとまた、別の誰かを愛す。……ううん。愛さない。愛している振りをする」 「どうして……」  彼女は悲しげに瞳を揺らして笑った。  その顔は、私より遥かに美しかった。 「あの人は誰も愛せない。だからあなたも、別の人と幸せになった方がいい」  それは、牽制でも嫌味でもなく、シンプルな忠告のように響いた。 「あなた、若いんでしょ?もったいないよ。あんな奴」  そのあっけらかんとした一言に、今まで感じていた不安や劣等感が全て許されたような気がして、気づいたら嗚咽と共に涙が止めどなく溢れた。  自分というものを、やっと手に入れたような気さえ。 「ね、ビール頼まない?から揚げ食べられる?」  メニューを広げる彼女は、決して何も失ってはいなかった。
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