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久しぶりに待ち合わせをした彼は、すっかり老け込んでいた。
しかし皺が増えた顔も醸し出す独特な侘しさも、彼の一種の魅力のようにも思える。
「久しぶり、優美」
申し訳なさそうに微笑む姿は変わらない。
彼はいつものようにコーヒーを飲みながら、私がチョコバナナパフェを食べる様子を見つめた。
彼とは半年に一回、こうしてファミレスで会っている。
この待ち合わせは十年前、両親が離婚してから一度も欠かしたことはない。
離婚の原因は父の浮気。
母が愛想を尽かして、私を連れて家を出た形だ。
父はいかんせん顔が良い。
その上人懐っこい性格だから、女の人が自然に寄ってくるんだ。
思春期の頃は浮気性の父に嫌悪して、裏切られた母を不憫に思い面会を拒否しようと思ったこともあった。
しかしこうして父と会い続けているのは、毎月多額の養育費を払い続けてくれている父の誠意を感じたことと、同居していた当時も父親という存在としては申し分なく、優しく理解ある人間だったからだ。
最近は、もう一つ目的がある。
「そうか。仕事は順調か。良かった」
父は目尻に皺を浮かべ微笑む。
そして、そろそろどう切り出そうかと、そわそわしているのがわかった。
「……母さんは元気か」
来たな。と、内心笑った。
「元気すぎるほど元気だよ。この間も、理沙さんと二人で温泉行ってた」
噓みたいな話だけど、理沙さんは昔の父の愛人だ。
母が父と離婚するきっかけになった人で、ファミレスで直接対決した時に仲良くなったらしい。
それ以来、父と決別した二人は友達として付き合いが続いている。
「そうか」
これまたどこか気まずそうに、申し訳なさそうにして笑う父。
「元気か」
そしていつも、母を思い浮かべては優しく微笑むのだった。
父は今、母に片想いしている。
もう二度と会えなくなってしまった母に思いを馳せては、私に母の近況を聞くのだ。
だから私は、この人と会うのをやめられないでいる。
「お父さんは、最近どう?新しい恋人できた?」
「……いないよ」
すっかり当時の元気を失い、くたびれてしまった父の姿は正直言って憐れに見え、憎めない。
「ねえ、お父さん。私、もうすぐ結婚するんだ」
パフェを食べるスプーンを置き、唖然とする父を見つめた。
「そうなのか!?」
「うん。大学時代から付き合ってた人と」
絶句する父がおかしくて、くすっと笑った。
今日は父に、とっておきのプレゼントがある。
「結婚式、来てね。バージンロード歩いてよ」
「でも……俺は」
「お母さんもいいって」
その一言に、父の表情は華やいだ。
「……ありがとう。優美」
二人がやり直せるとは思ってない。
だけど私を産み育ててくれた二人に、二人の唯一の共通事項である私の人生を見届けてもらいたい。
「幸せになるんだぞ」
どの口が言うか、と思って笑った。
父はどうしようもない人だ。
どうしようもなく不器用で可哀想な、それでも憎めない人。
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