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目の覚めるような青空の下。静寂を切り裂くピストルの号砲と同時に、俺たちは一斉にスターティングブロックを蹴った。
一斉に、と言っても横並びなのはスタート後のほんの一瞬だけ。練習なんてまともにやったこともない俺だけれど、生まれ持った瞬発力と反射神経だけでわずかコンマ数秒後にはすでに先頭を走っている。
そこからは簡単だ。がむしゃらに手足を動かすたび、俺に追い縋ろうとする奴らの必死の息遣いはみるみる遠くなっていく。
ほんと、簡単だ。馬鹿馬鹿しい。
最後数メートルは流した上で余裕を持ってゴールに飛び込む。特に感慨もない。
後ろを振り返ると、ちょうどチームメイトの氷川大地が胴体を突き出しながらゴールするところだった。6、7位争いといったところか。
どっちだって大して変わらないのに無駄なことを。
自校の待機場所に戻ると、先輩の嶋田がスポーツドリンクを持って寄ってきた。
「お疲れさん。それと優勝おめでとう」
「……うっす」
投げ渡されたドリンクを受け取りつつ適当に返す。どうせ部長の役目として労っただけだろうから、丁寧に対応する必要もない。
「氷川もお疲れさん! 12秒14だとよ!」
「マジっすか! やったー!」
続いて声をかけられた氷川は自己ベストが出たぐらいで馬鹿みたいに喜んでいる。お前が必死に練習して出したそのタイムは、手を抜いた俺にだって遠く及ばないというのに。
「お前さぁ、何が楽しくて走ってんの?」
気が付けば声に出ていた。
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