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職場である由美子さんを連れてきていないのは、彼女が妊娠中だったからだ。出産予定日と近日であり、彼女を無闇に連れ回す訳にも行かないから、念の為に母にお願いしておいた。由美子さんにも、万が一なにか起こったら母に連絡するように伝えてから家を出た。
大学に着くと、実験室に向かう。
中は春休み中だからか静かだった。人も全くいない訳では無かったが、雨のせいなのか、今日は以前とは違う異様な雰囲気が漂っている気がした。
「おはよう」
実験室に入ると、私に気づいた小谷秀さんが先に声をかけてくれる。秀さんは一学年先輩で、由美子さんと同期だった。
「教授ならいないよ」
部屋の片付けをしていたのだろう、書類や器具が散乱していた。
「そうなんですか?」
現在の時刻はまだ9時を過ぎたところ。今日は教授は用事があることは知っていたが、詳しいことは聞いていなかった。
「大事な要件みたいだよ。俺も詳しいことは知らないけど。俺が来た時にはもういなかったからさ」
秀さんが来たのは1時間も前だったらしいから、教授は相当早くに来たか最初からここには来なかったのかもしれない。
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