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Ⅲ.
さて、ブルック通りで新聞売りの少年が叫んでいた号外は、瞬く間にその小川を越え世に広まることとなった。
数ヶ月前から世を騒がせていたMr.X による連続機械人形破壊事件。被害者は既に失われた命の偽物と思われていたが、実のところ、真物は皆生きていたのである。
「だからこんなにも隣地が騒がしいのか」
「一区はもっとひどいらしいよ」
窓から見下ろしたエルメ邸には、警察が線を張っているにも関わらず多くの人が詰め寄せていた。機械人形保護の叫びが聞こえる。二区はエルメ邸のみだが、一区ではほぼ全ての家が急な来客に悩まされているらしい。
「いつもは見て見ぬ振りをしているだろうに」
「まあ、この騒ぎに乗じて貴族の失脚を図りたい人間もいるんだろう」
この話は終わりだ。カーテンを引けば、苦々しい表情のアレクシスも同じように目を逸らした。
「しかし、こうも騒がしいと早く離れたくなるね。君の方は、支度は進んでいる?」
「服くらいしかない。それよりも君の方が心配で来たんだ。こんなに雑多な中で、何を持っていくのか決めたのか」
「心配ない、僕の物はほとんど燃やすつもりだから」
必要なものは、いくつかの雑記帳くらいだろうか。その他の生活品はわざわざ時間をとって纏めるほどの物じゃない。
僕の言葉に眉を上げたアレクシスは、部屋の片隅を眇めた。
「あれもか」
視線を追う。薄暗い空気に多くの線を持つ機体が在る。
「いや、あれは燃やさないよ。信頼できる人間に運んでもらうさ」
「そうか、残念だ」
とはいえ、動かすのには苦労するだろう。そこまで重くないが何せ目立つ。彼らに任せれば問題ないと思うけれど。
「しかし、君に信頼できる人間がいるとはな」
「まぁね。それに、話もしたいそうで。十時って言ったっけ、この後取りに来るよ」
「は、聞いていないが」
「昨晩急に決まったからね」
掌を揺らせば、アレクシスが冷たく揺れる。息を吐き、重心を傾けて流れるように頭を倒した。
「遅くに来た警察か」
「おや、気付いていたんだ?」
「あの日の夜も来ていたな。私のことを知っている二人だ」
「そうだね」
卓上から降りる。自分よりも上にあった目が少し落ち、翠が静かに僕を見上げる。
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