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「ずっと考えていたのだが、国は、私の存在を承認する代わりに何か条件を出したのではないか。そうでなければ私を処分しただろう」
「へぇ」
視線を落とすと、床には多くの本や紙が積まれている。靴先で足場を作りながら話を促した。
「で、その条件は何だと思うの?」
「警察への協力だと、考えている」
彼は思考を述べた。
「どんな形かは分からない。だが、得体の知れない街からやってきた人形たちが蔓延る世界で、製造も所有も全てが一人の人間による機械人形は利用しやすいはずだ。機械人形社会に潜り込ませることだって出来る」
「利用? 君を?」
「機械人形に関連する事件は増加傾向にある。警察も手を焼いているだろう。違うか」
淡々と、自嘲も帯びない声色でアレクシスは言った。
まぁ、別に、今に始まったことではない。彼はこういう時なかなか嫌な言い方をしがちだ。自分が機械人形であることを知りすぎているから、アレクシスにとっては当たり前なんだろうけれど。
しかし、答え合わせを望むような、その顔がどうも憎たらしく思えて、僕はつい唇を歪めた。
「警察ね?」
「違うのか」
「違うとは言い切れないな。合っているとも言えないけれど」
我ながらくどい言い回しだ、案の定翠の瞳に鋭さが増す。
「なんだ。はっきり言え」
「そう苛立たないで。そうだね、全ての警察が君のことを知っているわけじゃないんだよ。あの二人は特別なんだ」
「特別」
「話は、そうだな。直接聞くといい。君の疑問なら何でも答えてくれるだろう」
柱を見遣れば、ちょうど半刻前の音が鳴る。僕の視線を辿って時計を見たらしいアレクシスは、少しの間をもって息をついた。
「わかった。部屋はここでいいんだろう、紅茶の準備をする」
「ああ、そうだね。確かに、いつまでも蝋燭だけで持て成す訳にはいかないか。ありがとう、とびきり美味しい紅茶を頼むよ」
目を細め、彼は何も返さず背を向けた。
足音が遠ざかる。階段の軋みが響く。やがて部屋には、カーテンの隙間から流れる喧騒のみが満ちた。
一度、瞬きをして。再び外を見下ろす。
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