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それから私達は高校を卒業して大学生になった。私達は学びたい事が違って別々の学校に入学したけど、よくデートをした。本屋、図書館、水族館、遊園地、スポーツの試合のスタジアムで。その頃には本を読むのが楽しくなっていた。ああ、夕香ちゃんと蒼介くんはこんな気持ちで本を読んでいたんだとやっと分かった。
大学ではフットサルをするようになった。楽しくて、楽しくて。そんな私を見て家族も蒼介くんも笑顔になった。
そして私達は社会人になった。蒼介くんは出版社に。私は運動に関わりたくてフィットネスクラブに就職した。
社会人2年目で私達は結婚した。出会って12年、24歳のことだった。いつの間にか、夕香ちゃんと過ごした時間よりも蒼介くんと過ごした時間の方が長くなっていた。
「朝美、がんばって」
蒼介が手を握る。
「そうですよ、お母さんになるんですからね」
お医者さんが励ますように言う。
「うー」
私はお腹の激痛に耐える。あともう少し、と言われてどれ程の時間経ったのだろう。
「ほら、頭が見えてきた」
「磯崎さん、もう少しですよ」
「ううー」
その時だった。
「オギャア、オギャア」
力一杯泣く我が子の声が聞こえた。
一気に体の力が抜ける。
「元気な女の子ですよ」
看護師さんが赤ちゃんを抱き抱えて私達に見せる。
くしゃくしゃの赤い顔をしたその子は元気に泣いていた。
「あっ」
思わず私の口から驚きが溢れた。
赤ちゃんの右手のひらには、小さな黒子があった。それは、夕香ちゃんと同じ位置の黒子だった。
(また、会えたね)
そんな思いが湧き上がった。
この子が夕香ちゃんじゃないのは分かっている。でも、この子がここにやってくる前に天国にいる夕香ちゃんと会って、会った印を貰ったのかな、そんな気持ちになった。
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