1人が本棚に入れています
本棚に追加
今の時期はおとめ座、獅子座が見えるらしい。意外にもというかやっぱりというか。蒼介くんは天体にも詳しくて色々私に教えてくれた。
そして初めての天体観測を迎えた5月初旬、夜の20時半。学校の屋上に望遠鏡をセットする。
「さあ、覗き込んで。スピカが見えるから」
中年の顧問の先生がそう言って、望遠鏡を手で示した。
私は望遠鏡を覗き込んだ。
星々は、光っていた。
堂々と、キラキラと。
大事にしている宝石箱の中にある、色とりどりの石のように。
そしてスピカは、一際強く光っていた。
何故だろう。神さま、という言葉が浮かんだ。
それほどまでにスピカは美しかった。
「どうだ?」
先生は尋ねた。
「……綺麗ですね」
「朝美ちゃん?」
蒼介くんが尋ねる。
「……変だなあ。ちっともモールス信号になってないや」
震える声で言うと、すみません、と望遠鏡から離れた。
「天野さん、具合悪いのか?」
私は首を横に振った。言葉が、出てこない。
ペコリ、とお辞儀をして私は校舎内に続くドアに走る。
まるであの日みたいだ。泣きながら走るなんて。私、もう15歳だよ? お父さんもお母さんも、お祖父ちゃん、お祖母ちゃんも。皆んな立ち直っているように見えるのに、私だけあの日に置いてきぼりだ。
最初のコメントを投稿しよう!