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ーー四月某日。雲一つない晴天に、ピンクの桜がよく映える。 今日は、大学の入学式。 俺ーー森崎(もりさき) (こころ)は、この春に島根県のド田舎から東京に上京してきて、今日から大学一年生になる十八歳。 田舎の地元が嫌いだったわけではない。空気が澄んでいて、流れる時間も穏やかで、寧ろとても好きな町だった。 ただ、子供の頃から都会に漠然とした憧れがあったのも事実だった。 中学生になる頃には、東京への憧れがますます募る一方だった。自分のような地味で暗い田舎者も、都会で暮らせば何か変われんじゃないかとずっと思っていた。 昔から成績だけは良く、高校の先生の勧めもあり、東京都内の国立大学に見事合格。今のところ将来の夢は見つかっていないが、いつか就職する時に選択肢が広がるんじゃないかという思いで経済学部を受けた。 そんなわけで、この春から俺は人生初の一人暮らし。 知らない土地でいきなり一人暮らしということで不安も大きいが、それ以上にやはり、期待も大きかった。
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