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─22─
愛里が出て行ってから、どれくらいが経ったのだろう。あきらと、そろそろ視聴覚室に行こうかと話していたときだった。ゆっくりとドアが開き、赤井先生が戻ってきた。
「先生!」
すぐに、凜華が駆け寄った。
「先生、血……」
よく見ると、赤井先生の灰色のシャツに血しぶきが付いていて、その部分が色濃くなっている。
「先生大丈夫ですか?」
「はい、怪我はしてません……僕は」
「僕は?」
聞き返すと「愛理はだめでした……」と、肩を落とした。
「ここを出て、二人で一階に下りたんですが、すぐに化け物が来てしまって。それで、トイレに逃げ込んだんですが、愛理だけ見つかって、連れて行かれてしましました」
やはり、チャイムが鳴らなくとも、化け物は徘徊しているのか。もう、チャイムは当てにしない方がよさそうだな。
「先生、隠れていたのにどうして、血しぶきを浴びているんです?」
珍しく、美雪が先生に質問した。
「助けようとしたからな」
無表情でそう言うと、持っていたハンカチでシャツを拭いた。
「ふーん」
腑に落ちない顔をしていた。血しぶきを浴びているということは、個室には入らなかったということなのか? それなら、辻褄は合うが。
まさか、愛理を盾にして、自分だけ逃げた……なんてことはないよな。
今は、深く考えるのはやめよう。それでなくとも、神野の件で頭の整理ができていないというのに、これ以上、懸念を増やすのはよくない。一緒に行動するのだから、尚更。
「赤井先生、俺たち今から視聴覚室に行くところなんですけど、一緒に行きますよね?」
話しかける声が、不自然に高くなってしまう。
「僕も一緒に行きます。一人では不安ですし。凜華たちは、ついてくるのか?」
個人的には一緒に行動はしたくないが……。
「もちろん行きます。美雪も行くでしょ?」
「──ええ」
こうして、五人で行動することとなった。次に向かう視聴覚室と言えば、少し前に、赤井先生が凜華を呼び出す幻聴があったところだ。
残る教室は、視聴覚室と、三年生の教室だけ。
「陽太、いませんね……」
俺の不安を察したように、あきらが声を掛けてきた。
「そうなんだよ。こんなに長い時間会えないなんておかしいよな」
「教室もあと二つですよね? そのどちらかにいるんですかね」
「そう願うしかない。でも、入れ違いってこともあるしな。なんであれ、生きていればいいよ」
「そうですね。きっと、どこかでうまく隠れていますよ」
そうだ、生きていてくれさえすれば、それでいい。
「さて、行きますか」
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