遺恨

5/33
前へ
/33ページ
次へ
─4─  チャイムが鳴り、化け物は教室へ戻っていったが、その様子を見に行くことにする。  この学校は、一学年ひとクラスで、一年生と、二年生の教室は一階にある。三年生の教室は二階で、当時、三年生になり、二階に教室が移ったことで、大人になったような優越感を感じさせた。  さっきの奴らは、確か、一年生のクラスに入っていったはずだ。  かがみながら、静かにドアのガラスから、中の様子を覗く。 「こ、これは……」  そこには、授業をしている化け物がいた。教員の影が教壇に立ち、黒板に向かい、なにやら授業をしているようだった。 ──そうか。さっき、チャイムが鳴り、教室から出てきたのは、授業が終わり休み時間になったから。そして、二回目のチャイムは、休み時間のお終わりを告げるもので、授業が始まる合図なのだ。  となると、授業中は安全ということになる。ならば、探索は主に授業中の方がいいだろう。  しかし、それでは教室を永遠に探索出来ないことになる……。それはあとで考えることにし、他の教室から探索を進めることにしよう。  一階には、職員室、保健室、一、二年生の教室、体育館の他に、音楽室、美術室、図書室、生徒指導室があるはず。もう、何年も前のことなので、うる覚えではあるが。  次は、音楽室の様子を見に行くことにしよう。確か、一、二年生の教室の右斜め向かいにあるはず。  四つん這いの体制になり、静かに一、二年生の教室を抜け、音楽室へ向かう。音楽室に誰もいないことを確認し、慎重にドアを開ける。  中は当時のままだった。歌が下手だった俺は、合唱の練習は常に口パクだったことを思いした。──苦い思い出だ。  手がかりになりそうなものがないか、隅々まで探す。  壁には、定番のバッハやベートーベンの肖像画が飾られてあった。この状況下では余計に不気味で、目が閉じたり、今にも飛び出してきそうで、恐怖を感じる。  教室の奥には大きなグランドピアノが置いてあった。せっかくの立派なピアノには、雪のように埃が降り積もっていた。  特に何も見つけることができず、諦め部屋を出ようとした時だった。突然ピアノが鳴りだした。  振り返ると、神野がピアノを弾いていた。その隣に背の高い男性が、ピアノに手をかけ立っている。  近づき、男性の顔を見る。  ──担任だ。担任の赤井俊介。背が高く、顔立ちもはっきりとしており、男から見てもかっこいい。  神野は穏やかな顔つきで、ピアノを弾いていた。  学校で、こんな顔をするなんて……。もしかすると、この担任の赤井俊介は唯一、信頼のおける人物だったのかもしれない。 「一人きりではなかったのか……」  そう思うと、少しほっとしている自分がいた。こんなにも恐ろしい目に遭っているというのに、感情移入している自分に驚く。    一曲が終わる頃には、二人は消えていた。  結局、手がかりに繋がるようなものは何も見つけることはできず、音楽室をあとにした。      
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加