遺恨

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─7─  金縛りが解けたように、体から力が抜けた。  恐る恐る、女性に近づく……。    嚙み千切られた女性の残滓(ざんし)を見た瞬間、胃の中のものを全て吐き出してしまった。  まだ吐き足りない……。  そこに横たわる女性は、人間だったと言っても誰も信じてはくれないだろう。  あの化け物は、なんだったんだろうか。人間の顔をしたねずみ……。また何か意味がありそうだ。  こんな死に方は嫌だ……。噛み千切られている様子が目に焼き付き、思い出す度、鼻の奥がつんとする。  とても切り替えることなど出来ないが、なんとか生き残り陽太を救い出すために、俺はさっきの日記の続きを見つけるしかない。それに、他になにか手がかりが隠されているのかもしれないし……。  もう少し、ここを探索しよう。    そういえば、あきらはパニックになり一人で出ていってしまった。無事に逃げきれたのだろうか。それにあきらと、あの女性は、あまり仲がよさそうには見えなかった。この状況だからなのか、昔からなのか。結局、あの女性の名前を知ることはなかった……。  一通り本棚をチェックしたが、何も見つけることができずにがっかりしていた時、ドア付近にある小さなカウンターの上に、ノートがあることに気づいた。 「日記だ!」  手に取り見てみると、二冊目のノートだった。  女性の遺体を避けながら、真ん中の机に座り、日記を開く。 九月二日  今日、話し合いが行われた。先生が言い出したのかと思ったけど、向こうから話し合いたいと言ってきたらしい。放課後、生徒指導室に呼ばれ話し合いが行われた。だけど話し合いと言っても一方的なもの。そこにいたメンバーは、凜華、ななみ、花梨、香織、優紀、愛理、美雪の七人。七人が訴えてきたのは、私が凜華を裏切ったというものだった。もちろんそんなことはしていない。だって、夏休み中もプールに行ったり、キャンプに行ったりもした、仲のいい七人グループだと思っていたんだから。それがなぜか夏休みが終わった途端、こんな状況になっていた。結局最後まで本当の理由はわからなかった。この話し合いは、単なる先生へのアピールだったんだろうと思う。自分たちは悪くない……ということを示したかっただけ。私は何も言い返さなかった。抵抗することはよくないと思ったから。明日からどうなるのか怖い……      そうか。主に、この七人がこれから神野をいじめていくのか。でも、この中でもリーダーがいたはず。神野の言う通り、本当に身に覚えがないのなら、言い出した奴がいたはずなのだ。そのリーダーが何か鍵を握っているのかもしれないな……。  九月四日      どうしよう。こんなにいじめが悪化するとは思っていなかった。朝、教室に入り、自分の机の中に教科書を入れようとして、机の中に手を入れたら、ねずみの死骸が入っていた。私は思わずその場で叫んでしまった。近くを通っていた数学の先生が入ってきてねずみの死骸を片づけてくれたが、みんなに問い詰めるようなことはしてくれなかった。そうだよね、こんな面倒に関わりたくないよね……。こんなひどいこと、これからも続くのかな。怖いよ    ねずみの死骸……。  日を重ねるごとに悪質になってきている。最後にはどんないじめになっていたのか想像するだけでも、身震いする。 ──待てよ。ねずみって……まさか。  さっきの化け物……。  そうか、やはりそうなんだ。これで確定だろう。  自分がいじめにあった内容や、いじめた奴らの性格や特徴を、化け物として表しているんだ。ねずみのように、やられたことを実体化した化け物がいるとするなら、あと何体出てくるんだよ。生き残れる未来が見えない。  それに、日記に書かれていた七人のメンバーの中にななみがいたな。あいつもメインのメンバーだったのか……。   「自業自得……か」  とりあえず、図書室はこの辺にしておいて、日記に書かれていた生徒指導室に行ってみることにするか。確か、目の前にあったはずだ。それに、次のチャイムが鳴った時どうにかして二年生の教室も見ておきたい。きっと教室にも何か手がかりがあるはずだ。  
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