美久里

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 「...何でもない。」  「何、気になるじゃん。」  苦しかったあの日の思い出話がしたい訳じゃない。  本当はあの時の気持ちを思い出したくもない。  「何でもないってば。」  ムッとして言い返すと、彼は驚いてごめんと謝った。  これで何度目だろう。その言葉を聞くのは。  久しぶりに聞いたその『ごめん』も、廃れることのない私の記憶に積もった。  本当の事を言えば、彼が私をふった時言った最後の言葉のお陰で私は変れた。初めはその意味も理解出来ず、私から離れた彼を酷く憎んだ。  だけど今ではもうわかる。  だから私はここにいる。
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