トリの惑星

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トリの惑星

 何の変哲もない、普通の朝。  男性は、高層マンションのベランダから外を眺めていた。  手すりに体を預け、穏やかな初夏の陽射しに目を細める。  都会と思えないほど美しい景色を見ていると、会社でのストレスが緩和される気がした。 「パパ、朝ご飯だよー」  室内から若い女性の声。 「はーい」  娘の呼びかけに応じて父親が室内に戻ると、ダイニングテーブルには三人分のホットケーキが並んでいた。 「ダイエット中なんだけど……」  高校生の娘は、そう言いつつチューブから大量のホイップを捻り出していた。そして、フォークとナイフで綺麗に切り分けて、口に放り込む。 「俺は、目玉焼きとパンがいいな」  父親は、ホットケーキにバターをのせて切り分けた。 「作ってもらってるんだから、文句は言わないの」  口をモゴモゴさせながら、娘が父親を戒めた。  それは当然の理屈であることは分かっていた。しかし、朝は甘いものよりも、塩気のあるものを食べたいのだ。 「卵が高くて、買えないのよ」  両手にコーヒーが入ったカップを持った母親が台所から歩いてくる。 「そんなニュースやってたな」  父親はカップを受け取る。 「鳥インフルエンザが流行っていて、大量にニワトリを処分してるっていってたわ。商売に行き詰って、大変な状態みたいよ」  父親は記憶を辿る。確か、一カ月くらい前だったか。大規模な養鶏場で火事があったというニュースを見たのは。  IT企業勤めの息子が稼業を継いだとかで、経済ニュースによく社長が出ていた。AIやITを駆使して養鶏を効率化したとか、そんな内容だった。  家が全焼して、一家全員が焼死したらしい。警察は無理心中と断定した……そんな結末だったはず。
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