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「サラリーマンが一番だな」
「毎月、お給料が出るって、良く考えれば凄いことね。でも、しばらーく上がってない気がするけど」
母親が仕返しとばかりに皮肉を言う。
「俺だって、頑張ってるんだ。それなりに――」
そう言いかけたときだった。窓の外から爆発音が聞こえた。ドーンという音とともに、窓ガラスが震えた。
同時にマンションが、地の底から揺さぶられるように振動した。
「一体、何が!」
父親は、フォークとナイフをテーブルに放り出してベランダに飛び出す。その行動につられ、娘と母親があとを追う。
遠くのビルから空に向かって黒煙が立ち上っていた。
「工場で爆発? あんな所にあったっけ?」
父親が目を凝らしていると「あなた、あっちも!」と母親がシャツの裾を引く。
首を捻ると、別の位置からも黒煙がのぼっている。
「何で複数の場所で同時に爆発が起こるんだ」
父親が唸るような声を出した。どこかのマンションでガス爆発が起きた、それが原因なら発生場所は一か所のはず。
同時に別の場所でガス爆発が発生するなんて、極めて低い確率に違いない。
「パパ、あれ……何?」
娘が遠くの空を指さした。目を凝らすと、真っ青な空に黒ゴマを散らしたような数十個の点。自衛隊の飛行機が通過するときのような轟音が遠くから聞こえた。
「まさか」
黒い点は次第に大きくなる。父親は、飛行機の編隊かと思った。しかし、飛んでくる物体は明らかに形が異なっていた。
「あれは、ミサ……!」
羽がない円筒形の飛行物体。父親は、それらが何であるか言葉に出しかけてやめた。言ってしまうと事実だと認めてしまうことになる。
娘が小さい悲鳴をあげて父親の腕にしがみついた。娘は震えていた。
異常事態に気が付いた母親も父親に体を寄せた。
「あなた、これって……」
いざという時に体は動かないものだと思った。いや、マンションをすぐに飛び出しても手遅れだ。逃げ場などない。
黒い点だったそれは、気が付けば円筒形の外観がはっきりと分かる距離にまで近付いていた。耳をつんざく轟音。
父親は、娘と母親の肩に手を回して引き寄せた。それと同時に閃光が走った。
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