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* * *
「私は、刑事の立花と言います。最初に簡単なテストを行ってもらいます。あなたの精神状態を確認するものです」
額に深い皺が刻まれた男性は、その顔に似合わない笑みを浮かべる。男性は五十代後半だったが、白髪であることで実年齢よりも年上に見られることが多かった。
「はい……」
男性の視線の先には、一人の女性がうつむき加減で座っている。
狭い部屋には簡素な事務机が一つと、椅子が二つ。それ以外に物は置かれていなかった。女性は一瞬だけ刑事の方を見ると、すぐに視線を落とした。
黒地の地味なワンピース姿のその女性の肌は異様に白く、顔は痩せこけていた。
男性は冊子と鉛筆を女性に渡す。女性は言われるがままに、冊子の問いに答えていった。
回答を終えると刑事は冊子を受け取った。
「お聞きしたい事があります。ただし、話すのが辛いと感じたら、答えていただく必要はありません」
刑事は事務机に肘をついて、両手を顔の前で組んだ。
「ここは、どこでしょうか?」
「警察署です」
「安全……でしょうか?」
「屈強な刑事が控えています。あなたが襲われる心配はありません」
女性は安堵したように、小さく溜息をついた。
「あの監獄から逃げ出してきました」
ゆっくりと話し始める。
「監獄ですか?」
「ずっと狭い部屋に閉じ込められていました」
女性は落ち着かない様子で、両手をモゾモゾと組み直す。
「外には出られない?」
「はい。トイレがある部屋で、一日に数度、食事が与えらえれました。風呂やシャワーはありません。週に一度だけ部屋から出されて、シャワーが許されました」
「それは、酷い……」
「それだけではありません」
女性は、刑事の目をキッと見据えた。
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