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とりあえず居酒屋を出た。あまりにも色気がなさすぎるから。
「研ちゃん、これからどうするの?」
「んー、美蘭ちゃんを家まで送るよ」
この期に及んで何を言うんだ、この男は。バッグからスマホを取り出し、掛ける。
「もしもし、お母さん? そう、うん。今夜は帰らないから! うん。じゃあね、おやすみ!」
電源ボタンを押し、切る。研ちゃんがあっけにとられた顔をしている。ざまあみろ。
「……え?」
「この流れでこのままおしまいとか、ありえないでしょ!」
研ちゃんはしばらく固まっていたけど、ぼそりとつぶやくように言った。
「……これって、据え膳?」
「今更何言ってんだ、この唐変木!」
「美蘭ちゃんは、傾向が読めるようでいて、対策が全然わかんないなあ」
唐変木って罵倒、語感が好きなだけでしょ、と言われる。バレてる。研ちゃんの手を取り、指を絡めると、ゲラゲラ笑われた。全く色気のない。私も大概だが。
「じゃあ、ドラッグストア寄らせて」
「うん。私もいろいろ買う」
こんな予定じゃなかったから、基礎化粧品も替えの下着も、ない。
「何年も身綺麗に暮らしてたから、まるで準備がない」
「……ん」
「そういう意味で取っていいんだよね? 据え膳」
「……ん」
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