マーケティング・リサーチ あるいは傾向と対策

5/17
前へ
/17ページ
次へ
「そんな風にさあ、美蘭ちゃんらしさを全力で押し出していけばよかったのに」 「仕方ないじゃん! 私の顔が好きってタイプは、みんな、清楚で従順な女性が好きなんだもん」  研ちゃんがやっぱり渋い顔をするので、少し話を変える。 「大体、お見合い中もずっと『緑川(みどりかわ)さん』って名字で呼ばれてたから、これはあかんなとは思ってて……」 「美蘭ちゃんの方は、なんて呼んでたの?」 「三浦(みうら)先生」 「……え」 「だって! 向こうが名字で呼んでくるのに! 名前では呼べないじゃん!」  私は阿呆だけども、それくらいの空気は読める。ばっきり線を引かれてるのに、踏み越える勇気はさすがに出ない。  研ちゃんはしばらく黙っていた。いつも打てば響くように返してくれるのに、珍しいな。  なんだか持て余して枝豆を食べる。おいしい。枝豆はいつでも裏切らない。こういう安定した味わいの人間になりたい。そんなことを思っていたら、ぼそりと訊ねられた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加