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「そんな風にさあ、美蘭ちゃんらしさを全力で押し出していけばよかったのに」
「仕方ないじゃん! 私の顔が好きってタイプは、みんな、清楚で従順な女性が好きなんだもん」
研ちゃんがやっぱり渋い顔をするので、少し話を変える。
「大体、お見合い中もずっと『緑川さん』って名字で呼ばれてたから、これはあかんなとは思ってて……」
「美蘭ちゃんの方は、なんて呼んでたの?」
「三浦先生」
「……え」
「だって! 向こうが名字で呼んでくるのに! 名前では呼べないじゃん!」
私は阿呆だけども、それくらいの空気は読める。ばっきり線を引かれてるのに、踏み越える勇気はさすがに出ない。
研ちゃんはしばらく黙っていた。いつも打てば響くように返してくれるのに、珍しいな。
なんだか持て余して枝豆を食べる。おいしい。枝豆はいつでも裏切らない。こういう安定した味わいの人間になりたい。そんなことを思っていたら、ぼそりと訊ねられた。
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