2

1/1
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

2

人間ってビックリすると本当に肩が上がる。 そして本当に声が出ない。 鍵を持っているということは、勝子か勝子のお父さんに違いない。 それかお父さんの会社の人か。 絶対に暴漢とかじゃない。 無理矢理に気持ちを正気に戻そうとした時、意外な顔が現れた。 横山くんー…。 『おう!久しぶりー』 なんでよ… 口を半開きにして立ち尽くす私に、横山くんが切り出した。 『リモートワークの場所を探してるって本田に話したら、ここを貸すって言ってくれたんだよ。本田からも連絡いってると思うけど。』 昨日の夕方から放っておいた携帯を見たら、確かに勝子からメールが入っていた。 《ハロー! ゼミ仲間の飲み会で横山くんと話したら、リモートワークの場所を探してるって言われてさ。 実家にお兄さん家族が同居することになって落ち着かないみたい。 もう少しお金貯めたいからまだ実家は出たくないらしくてね。 話の流れで屋上貸すって言っちゃったのよ。 あんたは週末くらいしかいないし、横山くんの仕事は平日だし、あまり重ならないからいいよね。 よろしく!》 …もちろん借りている私に拒否権は無い。 そしてなんともまあ、勝子らしく強引で優しい連絡なんだろう。 すぐにわかったよ、勝子。 もう1年経ったのだから、そろそろ男の人と関わりなさいってことだね。 前に進みなさいってね。 私も鈍感では無い。 学生時代の横山くんからの好意には何となく気付いていた。 私も嫌いではなかった。 一緒にいて心地良い人だった。 だからといって、なにもなかった。 勝子も横山くんからの好意は知っていたから、これはチャンスと閃いてくれたんだろう。 ありがとう勝子。 その思いやりだけもらっておくよ。 私は《了解》とだけ返事を書いた。 随分と高飛車な返事で申し訳ないけれど、それしか書けなかった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!