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人間ってビックリすると本当に肩が上がる。
そして本当に声が出ない。
鍵を持っているということは、勝子か勝子のお父さんに違いない。
それかお父さんの会社の人か。
絶対に暴漢とかじゃない。
無理矢理に気持ちを正気に戻そうとした時、意外な顔が現れた。
横山くんー…。
『おう!久しぶりー』
なんでよ…
口を半開きにして立ち尽くす私に、横山くんが切り出した。
『リモートワークの場所を探してるって本田に話したら、ここを貸すって言ってくれたんだよ。本田からも連絡いってると思うけど。』
昨日の夕方から放っておいた携帯を見たら、確かに勝子からメールが入っていた。
《ハロー!
ゼミ仲間の飲み会で横山くんと話したら、リモートワークの場所を探してるって言われてさ。
実家にお兄さん家族が同居することになって落ち着かないみたい。
もう少しお金貯めたいからまだ実家は出たくないらしくてね。
話の流れで屋上貸すって言っちゃったのよ。
あんたは週末くらいしかいないし、横山くんの仕事は平日だし、あまり重ならないからいいよね。
よろしく!》
…もちろん借りている私に拒否権は無い。
そしてなんともまあ、勝子らしく強引で優しい連絡なんだろう。
すぐにわかったよ、勝子。
もう1年経ったのだから、そろそろ男の人と関わりなさいってことだね。
前に進みなさいってね。
私も鈍感では無い。
学生時代の横山くんからの好意には何となく気付いていた。
私も嫌いではなかった。
一緒にいて心地良い人だった。
だからといって、なにもなかった。
勝子も横山くんからの好意は知っていたから、これはチャンスと閃いてくれたんだろう。
ありがとう勝子。
その思いやりだけもらっておくよ。
私は《了解》とだけ返事を書いた。
随分と高飛車な返事で申し訳ないけれど、それしか書けなかった。
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