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(Rei side)
正月は俺の実家に忍とマネージャーの國枝さんが来て、3人で、『れいしの』のYouTubeチャンネルの動画について、ミーティングをした。忍は家に泊まって、俺の母親に挨拶をして、何事もなく帰っていったが、その後、社長から、忍のスキャンダルが週刊誌のネット記事に載るとの連絡があった。内容は枕営業の噂と、奈良田やその友人と忍が、あるブランドの服に火をつけている動画の流失だ。枕営業は証拠がないので大丈夫だが、動画は炎上しているらしい。
忍の主演映画が海外の外国語映画賞にノミネートされたことで、忍は注目を集めており、3月には海外と日本で授賞式を控えている。話題性を狙った記者に狙われたということだ。
それから、忍に何度連絡をとっても、返事は返ってこなくなった。
忍が住むマンションの部屋の前で、ドアを背にして座り込む。忍の仕事が何時に終わるのかは分からなかったが、自分の仕事を今日だけは早めに切り上げてくださいと、マネージャーの國枝さんに頼み込んで、早々にここへ来た。俺も忍も、以前と比べて数倍仕事が忙しくなってきており、かなり会う頻度が減っていたところでこの件なので、忍は自然消滅を狙っているのかもしれないとふと考えた。マイナスに考えるのはやめようと、イヤホンを耳につける。普段よく聴いている洋楽が流れた。切なさを誘うような音楽が、悲しく耳に響く。疲労、苛立ちが一気に押し寄せてくる……。
忍が帰ってきた時には、深夜の時間帯になっていた。忍が近づいてくると、俺は立ち上がって思わず彼を抱きしめた。顔を覗いたが、忍の感情は分からない。部屋に入ると直ぐに、俺は記事の件を聞いた。
「ごめんね、僕らの関係のことまで言われてる」
「別に問題ない。忍は俺との関係を知られるのは嫌?」
「黎に迷惑かけたくない」
「俺は忍が嫌なら誰にも言わない。でも……奈良田と遊ぶのはやめた方が良い」
「累は関係ないよ」
忍は、奈良田が何をしても、奈良田との縁を切るつもりはないのだと何となく分かっていたが、実際にそう言われるとイライラした。
「あのブランドが嫌い? どうして?」
「言いたくない」
それに、理由がどうであれ、僕は正しい選択をしなかった。
「忍のことを全部知りたい」
「嫌だ」
顔を触ろうと手を伸ばしたが、忍は身体ごと避けた。
「黎ともうそういうことはしないから」
腕を掴むと、忍はそこから逃げようと立ち上がった。際に追い込んで逃げ場をなくそうとすると、勢い余って、忍が壁に頭を打つ。痛みに耐えているのか、忍が目をぎゅっと瞑る。俺は忍の首元に口付けた。
「……嫌だ!」
俺は服の中に手を入れて、腰あたりを撫でながら、突起を弄る。
「黎、やめて……!」
……何をやっている、俺は。
「もうやめる。黎とこういうことするのは。BL営業もやめさせてもらうように言ってきた」
俺は忍の涙が伝った頬にゆっくりと近づいていき、キスをした。目線を忍に合わせる。
「俺は忍のことが好きだよ。だから一緒にいたい。……忍もそう思ってると思うのは、俺の勘違い?」
「——僕は好きじゃない」
「忍が抱えている問題、知ってますよね?」
「知らね〜……」
「教えてくれなかったら、俺はこの仕事を辞めます」
「……まじかよ。黎、本気か?」
「はい」
事務所の社長室で、俺から少し離れて、椅子に座っている若社長がどうしたものかと頭を抱えた。
「忍は高校生の時に、箱田流(はこたりゅう)という同級生に強姦されたらしい。二人と同級生だった累がそいつのことを調べていて、そいつがファッションブランドを起業したことを知ったらしい。それで、忍といつも一緒にいる友達思いの仲間達が、服を燃やしたってことだ」
「ちなみに〜、そいつの親は、忍の親に示談金を払ったらしいが、その額が多額だったらしくてな、そいつも忍を逆恨みしてるらしい。そ・れ・で、そいつ、この間の田原さんと繋がってるらしいよ? 随分と親密な関係みたいでな〜?」
その新設のオフィスは、外観もポップなデザインで、塗装も変色等していない綺麗な印象だ。社長によると、ここで今日、忍と奈良田は箱田と会うらしい。中に入ると、内装もそのイメージと違わずだが、人は彼らしかいないようだ。静寂なオフィスに、箱田の声が響き渡った。
「払えよ? 取った金全部返せ」
箱田が忍の腕を掴もうとしている場面。俺はその手を払いのけた。
「……黎?」
「お前、田原さんって知ってるよな?」
その名前を聞くと、箱田の顔色が明らかに変わった。以前、忍の枕営業の現場にいた、そして忍のことを週刊誌に売ったあのお偉いさんだ。
「随分可愛がられてたみたいだな。お前の為に、週刊誌に忍のこと売ったんだろ?」
「あの人は関係ない」
「写真もあるけどどうする? 金輪際、忍に関わらないって約束するなら、秘密にしておいてやるけど」
箱田は苦虫を潰したような顔をして、忍の隣にいる奈良田は俺が気に入らないようでこちらを睨みつけていた。
忍と会わなくなり、半年以上が経過した。長い期間、落ち込んでいる俺を見ていられなくなったのか、岡部が「景気祝いにバーベキューでもしよう! 有町さんと赤樫さんも誘うから」と提案してきた。
岡部の自宅で俳優仲間とバーベキューをしていると、岡部が衝撃的なことを言った。
「あっ、黎、しのも誘ったから!」
「は?」
「そんなに目に見えてずっと落ち込まれると心配になるわ!」
「いや、でも……」
「もうすぐ黎の誕生日だろ? 来てくれるって! 今、友達とこっち向かってるって連絡来た。迎えに行ってやれば?」
いや、それなら先に言って欲しい。だが、友人のサプライズに背中を押されて、その場から走り出した。
「何で断らなかったんだよ?」
「別に嫌なら累は来なくても大丈夫だけど」
「黎に会いたくないんじゃないのかよ?」
「他の人も来るし」
「何が嫌なんだよ?」
「忍のこと好きだから」
「は? 何言って」
「お前は誰のことも好きにならないと思ってた。だから言わなかった。でも、会わなくなったのに、黎に会えると嬉しそうだ。何でだよ」
「好きなのか?」
「……分からない」
「試してみるか? 男が好きなのか、黎が好きなのか。俺と付き合ってみたらどっちか分かるかも」
奈良田はキスしようと忍に顔を近づけた。俺は二人の前に出て行って、自分の手で忍の唇を隠すように防御する。
「黎……!」
「忍、来て」
そのまま忍を連れて、車で俺の家まで来た。部屋に入ると、リビングで、俺は忍に口付ける。忍は逃げようとするが、手で頬を押さえて離さなかった。
「黎……だめっ」
忍をソファに押し倒した俺は、服の中に手を入れて、突起を弄った。覆いかぶさって、口も近づけて、今度は舌で弄る。
「俺には教えてくれる? 誰が好きなの?」
「……やだ!」
シャワー室から出て、上半身裸で忍は部屋に戻ってきた。髪は乾いているが、セットしていないので、前髪ができていていつもより幼い印象だ。切羽詰まったようにキスすると、忍はスイッチが入ったのか、俺に噛み付かれた唇を赤くして、欲するようにこちらを見る。顔を近づけていくと、忍が少しずつ目を閉じて、線になるように上下が重なっていくのが美しくて、綺麗な陶器を壊してしまうような感覚を陥る。『壊されたくない、壊されたくない』と大切に守ってきた陶器(それ)を、俺は今から床に落としてしまうのだ。
謝ったら駄目だと思った。そうしたら、忍が罪悪感に呑まれて、いなくなってしまう気がした。俺は安心させるように、忍に優しく触れるだけのキスを何度もする。忍が官能的に舌を入れてきて——駄目だ、自制が効かない。自分の欲望が峙つのが分かった。忍を押し倒す。「……っ」呼吸が激しくなる。忍は、俺が身に付けていたシャツのボタンを片手で外していき、俺の胸筋を手のひらでなぞって、覆い被さっている俺にキスをした。
「前から鍛えてたけど、いつのまに分厚くなってる」
身体を起こして、俺は服を全て脱いだ。
「もっとみる?」
「いやらしいね、黎」
「忍ももっとみせて」
ボトムスを脱がせると、忍は少し恥ずかしそうな顔をした。ローションを使って、性器を挿れていくと、忍は堪えきれなくなったように目一杯涙を流して、「ううっ……」と声に出した。
「あっ……黎、もっと……」
こんなに感情を出した忍は、初めて見る。ずっと感情に蓋をしていたものが取れて、安心したように忍は笑った。
「黎にずっと言えなかったこがある」
「うん」
「——僕は黎のことが好き」
ベッドでうつ伏せで横になっていると、隣で寝ている忍が不思議そうにこちらを見た。
「考え事? なになに?」
「同棲したい」
芸能人同士で同棲するということは、週刊誌に撮られるリスクがあるということで。忍は考えるように視線を動かした。
「でも、忍が嫌なら……」
「したい……僕もしたい!」
「本当に?」
「うん」
「じゃあ忍の両親にご挨拶を」
「えっ?」
「……だめ?」
「……ううん、黎が一緒に来てくれるなら。全然帰ってなかったから」
今度、二人揃った休みが取れたら、忍の実家に帰省することになった。笑みが溢れる。
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