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キーンコーンカーンコーン、とチャイムの音を口ずさむ。
「百合、私今日も先帰るんでいいんだよね」
あふ、と欠伸をしながら美里が訊ねてきた。
「うん、大丈夫。先帰ってて。私秋春君を待つから」
「あ、そ。入学式から一週間も、よくやるねえ。ちゃんと一緒に帰ってんの?」
「うん。お願いしたら、駅までならいいよって」
入学式の日、再会した時に、一緒に帰ってくれるように頼みこむと、秋春は頷いてくれたのだ。ふうん、と頷いた美里が考えるように頬に手を当てた。つやつやの爪が、ライトを浴びて光っている。
「えーと、山田だっけ。あいつこの辺でしょ?」
「そう言ってたけど……なんで美里が知ってるの?」
「あんたに聞かされてんだろうが」
「うん。えへへ」
百合は秋春の顔を思い出してでれっと笑った。締まりのない顔に、美里が呆れたように肩を竦める。
「いーけどさあ。あ、ほら、噂をすれば、だよ」
「えっ、あ」
美里が指を差した先には、遠慮がちに教室を覗き込んでくる秋春の姿があった。ぴょんと勢いよく立ち上がった百合は、急いで秋春の方へ向かう。
「ごめん、話し中だったなら俺、帰るけど」
「あ、大丈夫。ね、美里」
「ん、別に。アタシ寄り道して帰るし」
近寄ってきた美里はじろじろと秋春を見渡す。その視線に戸惑ったように秋春が首を捻る。
「俺、なんか変?」
「別に。あんたが噂の秋春かと思って」
「あはは……、別に俺って訳でもないと思うけどね」
「ふうん」
美里が目を細める。
「み、美里」
秋春に何を言うつもりなのか心配で、美里の手を軽く引っ張った。美里は百合を横目で見ると、まあいいけど、と肩を竦め、ポケットからスマートフォンを取り出した。
「連絡先教えてよ」
「ああ、いいよ」
美里は連絡先だけ交換すると、空いている手で百合の肩を叩き、秋春に告げる。
「こいつ面倒だけどよろしくね」
「別に面倒じゃないもん!」
頬を膨れさせて文句を言う百合を気にした様子もなく、美里はひらりと手を振った。
「それじゃ、お先に」
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