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「もう桜終わっちゃったね」
「ああ……まあ、入学式の時から散り掛けてたからね」
緑の葉に色づいた木々の間を歩く。校門までのオレンジ色のタイルは綺麗に掃除されて、桜の花びらは残っていない。そのことが少し残念だった。
「百合さんは、桜が好きなの?」
「うん」
百合は頷いて、秋春に向けて微笑みかけた。秋春の頬が仄かに色づく。
「初めて秋春くんに会ったのが、この季節だったから」
百合がそう告げると、秋春は目を瞬き、何も言わずに歩き出した。その背中を追いかけるように、足を踏み出す。
百合の半歩前を秋春が歩く。そうしているだけで、どきどきと心臓の音が大きくなる。
駅に辿り着いて、それじゃあ、と別れを切り出すと、秋春がおもむろに口を開いた。
「あのさ、百合さん」
「何?」
「……いや」
何でもない、と口籠る秋春に、百合は首を捻った。気にはなるけれど、あまり突っ込んで聞くと嫌な思いをさせるかもしれない。
手を振って、秋春と別れる。駅の改札をくぐってから振り向くと、まだそこに秋春が立っていた。百合は笑って、彼に向けて再度手を振った。
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