巡る春

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 百合は家の近くの公園で足を止める。立派な桜の木も、やはりもう花びらを落として葉桜に変わってしまっていた。ざあ、と風が吹く。地面に落ちて、変色した花びらが、百合の足元をくるりと回った。  小学四年生の冬に、父の仕事の関係で転校になった。クラスメイト達は皆グループが出来上がっていて、百合はあまり馴染めずにいた。  この公園も、遊びに入れて欲しくて訪れて、けれど誰とも話せずに桜の木の影に隠れていた。そんな日々を繰り返した春、秋春に見つけられたのだ。  百合はそっと、目を閉じる。いつでも鮮やかに、あの日のことを思い出せる。  木陰に隠れるように座り込んでいた百合の所へ、草をかき分けて現れた男の子は、百合を見て目を丸くした。 「泣いてるの? 大丈夫?」  これ使って、と彼は百合にハンカチを差し出してくれた。 「どうして泣いてるの?」 「……、だって」  みんな、遊んでくれない、と百合が言うと、彼は明るく笑って百合に手を差し伸べた。 「それなら俺と遊ぼうよ」  一人ぼっちの公園はつまらなかったけれど、二人だったら楽しかった。ブランコに揺られて、秋春が訊ねてきた。 「百合ちゃんはどこの小学校通ってるの?」 「みずいろ小」 「俺は夕焼」  そうか、違うのか、と、残念になって溜め息を吐いた。見上げた空はいつの間にかオレンジ色になっていた。もうそろそろお家に帰らなくてはいけない。そして、今日が終わったら、秋春と会うこともきっとない。 「……明日なんて来なければいいのになあ」 「ええ? 何で?」 「だって、今日は楽しかったし」  明日はまた、気の重い日が始まるのだと思うと息苦しくて嫌だった。しかしその言葉にびっくりした顔をした秋春が言った。 「今日楽しかったなら、明日はもっといいことあるよ」 「……そうかな」 「そうだよ」  そうだよ、と笑う少年の顔は、朝の日差しのように眩しかった。  百合はゆっくりと目を開ける。穏やかで、静かな公園の姿がそこにある。  あの日のことを、百合はいまだに覚えている。
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