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「それでね、秋春くんはあの時、お母さんが知人に会いに来ただけだから、普段は公園にいないらしくて。だけどもう一回会いたいじゃない? でも、中学は学区が違うし……だからね、高校で会おうよって秋春くんが言ってくれたの。家の近くの高校に通うつもりだって! それでこうして会えてるんだから、運命だよね……やっぱり秋春くんは私の王子様なの!」
「あーはいはいはい知ってる知ってる」
呆れ交じりに美里が手を振り、それから彼女は目を細めた。
「っつか、百合はあいつでいいの?」
「いいって?」
秋春は秋春であるというのにどうしてそんなことを問うのだ。百合はずっと、秋春だけを思ってきたのに。困惑と共に首を捻ると、だから、と焦れた風に美里が言う。
「だって、山田は百合のこと覚えてないんでしょ」
「それは……」
「じゃあそれって、百合の好きな秋春なの?」
「……秋春くんは、秋春くんでしょう」
「ふーん。いいけどね、別に」
それじゃ、アタシ先帰んね、と手を振って、美里が教室を出て行ってしまった。百合はむう、と唇を尖らせる。
秋春は秋春だ。そう言う一方で、ほんの僅かに、言いようのない不安があった。
ふるふると首を振って、百合は隣のクラスに顔を出した。友人と何か話し込んで笑っている彼の横顔に胸が高鳴る。
「秋春くん」
呼び掛けると、秋春は百合を見た。その姿に、自然と顔がほころぶ。
「一緒に帰ろう」
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