巡る春

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 ぴかぴかの高校の制服。赤いリボンを止め直し、息を吸う。  終わりかけの桜の花が、ひらひらと揺れてグラウンドに落ちていく。  心臓が音を立てる。まだ教科書の入っていない軽い鞄を肩に掛けて握り直し、百合は足を強く踏み込んだ。ゆるくウェーブの掛かった鳶色の髪がふわりと揺れる。  彼は、あの頃よりずっと身長が伸びた。短く切り揃えられた焦茶の髪が陽光に煌めく。  丁度校門をくぐった彼に走り寄り、おはよう、と声を掛ける。 「久しぶり、また会えたね!」 「え、誰?」  百合の初恋は、そうして終わりを告げたのだ。
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