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皇帝との面会を無事に終え、王宮の裏門から出てきた二人を。
「やあ、律に紅悠さん。こっちだよ」
翠と明の兄妹が、馬車を準備して待ち構えていた。
「翠。今日は色々と世話になったな」
「いやいや。落ち着いたらまた、酒でも呑みながらゆっくり話をしようじゃないか。紅悠さんも、ね」
「ええ。是非また、お二人で首長邸へいらしてください」
律と紅悠を乗せた馬車が遠ざかるまで、翠は手を振って見送ったのだった。
ふぅ、と一息吐いてから、翠は傍らの明に目をやると。
「いい加減、あの二人のこと認めてあげたら?あんなに幸せそうなんだから」
「なっ…!私は、ただ…っ!」
これまで黙り込んでいた明だったが、兄の言葉に弾かれた様に顔を上げた。
「…ただ、分からないだけですわ。どうして律様は、今の仕事にこだわるのか。」
これまで明は、律が国政に上がることが最善の道だと、信じて疑わなかった。
しかし、そうではなかったのだ。律の本当の望みを理解していたのは、明ではなく紅悠だったのだろう。
翠は再び、馬車が消えていった道の向こうに目を向ける。
「確かに律は、国政の舞台でも十分に活躍できる。…だけど律は、他の誰より、民を想う気持ちが強いんだよ」
その言葉に、明はそっと翠の横顔を見上げた。
「律のような王族が、地方の村には必要だ。民に寄り添い、時には身体を張って村を守る。そんな人間に、人々は自ずとついて行くからね。そういう信頼関係が各地に築かれていれば、本当は法律で雁字搦めにしなくても、国は安定するはずなんだ」
しかしここで、翠は小さく嘆息してみせ。
「とはいえ、そんな心ある王族は非常に稀有な存在だ。この国に住まう大勢の民を守るために、今はやはり法整備を進めて、悪を成敗しないとね」
言いながら翠は、懐に大事にしまってある文書を、衣の上からぽんぽんと叩く。
「この法案が次の国議で通れば、『公戦令』は廃止。領地の略奪は出来なくなるし、これまで不当に奪われた領地は、もとの王族に返還される」
翠は、にこりと明に微笑みかける。
「さて、最後にもうひと踏ん張り。明にも、根回し手伝ってもらおうかな。得意分野でしょ?」
「な、何を仰っているんだか…」
動揺する明をよそに、翠は。
「おや、この間は実に見事に藍龍族へ取り入ってたじゃないか。紅悠さんのお願い、聞いてあげたんだろ?」
「なっ、あ、あれは律様の為であって、あの子は何も…!」
「はいはい。さて、そろそろ仕事に戻らないと」
そう言って飄々と王宮内に戻っていく翠を、明が顔を真っ赤にして追いかけていくのだった。
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