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「お主、いくつになった」
「…十八です」
「ほれ、やはりいい頃合いじゃ。実はわしの古い友人から、良い縁談話をもらった。何、心配するな。先方も王家の血筋の、立派な青年じゃ。」
「王家の…?許嫁のいない、年相応の殿方などいたでしょうか?」
首を傾げる紅悠の前で、祖父はにやりと口の端を吊り上げる。嫌な予感で、背筋が寒くなった。
「紅悠、わしは狐族の王家とは、一言も言ってはおらぬ。お主は狐族の歴史上初めて――龍族の王家へ嫁に行くのじゃ。光栄に思え。」
――龍族。
紅悠も、噂程度にしか聞いたことがない。ここから東の山を越えた先に、七つの王家を持ち、神獣族の頂点に立つとも言われる龍族の国があると。
ちなみに祖父の言う“古い友人”とは、龍族の現皇帝のことだという。
神獣族はそれぞれに国を造り、一族の民は生涯その国の中で過ごすのが普通だ。他の一族との交流もほぼないと言っていい。
ただ、一族の皇帝同士の繋がりは、以前から脈々と続いているのだと、幼い頃に父から聞かされたことがある。
「…龍族の王家との縁談だなんて、どうしてまた、そんな突拍子もないお話が?」
紅悠は心の底から困惑して尋ねるが、祖父はよくぞ聞いてくれましたとばかりに、嬉々として語り始める。
「お主も、聞いたことがあるだろう。我が一族に古くから伝わる伝承を。」
「伝承…ですか」
祖父は、大きく頷くと。
「左様。『狐族の娘が龍族の男と番になった時、その娘には特別な力が授けられる』、という伝承じゃ」
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