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口が、ぽかんと開くのを自覚した。
「そんなもの…伝承というより、ただの迷信ではございませんか」
「それが、そうとも限らんのじゃ。なんと、龍族にも同じような言い伝えがあるらしい。『龍族の男が狐族の娘と結ばれることで、内なる力が覚醒する』、というな。どうじゃ、面白いと思わんか。」
祖父には、昔からこういうところがあった。興味のあることに対しては、子供のように目を輝かせてとことん探求しようとする――それに付き合わされる周りの王族たちは、さぞ苦労が絶えないだろう。
「面白いかどうかの前に、そもそも一族を超えた婚姻など、龍族の側でも前例がないのでは?そう簡単に決められることではないかと思いますが…」
ここで祖父は、大仰に腕組みをしてみせる。
「紅悠。前例がないからと尻込みしていては、何も始まらんぞ。やってみれば案外上手くいくかもしれぬではないか」
「…逆に、何か問題が起きてしまったらどうなさるのです?」
しかしこの質問については、祖父も想定していたようで。
「案ずるな。あちらの皇帝とも話をして、三か月の試用期間を設けることにした。」
「試用期間…?」
うむ、と祖父は自信満々に頷いて。
「確かにお主の言う通り、実際に結婚してみないことにはどんな問題があるかも分からぬ。そこでこの三か月の間に、この結婚がどれだけ有益なものか、確かめてくるのじゃ。」
勿論、伝承の真偽も含めての、と、祖父は片目を瞑ってみせる。
「…つまり、私は実験台ということですか」
半眼で尋ねる紅悠に、祖父はわざとらしく咳払いをしてから。
「兎に角、もうこれは決まった話じゃ。出立の準備も進めておる。お主は龍族に嫁に行くのじゃ。良いな」
こうなるとこの狐爺は、誰が何と言おうと聞く耳を持たない。それは紅悠も、嫌というほど分かっていた。
…と言った事情で、紅悠はやむなく、龍族の国へと旅立つことになったのだった。
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