一.異郷の花嫁

3/4
前へ
/50ページ
次へ
口が、ぽかんと開くのを自覚した。 「そんなもの…伝承というより、ただの迷信ではございませんか」 「それが、そうとも限らんのじゃ。なんと、龍族にも同じような言い伝えがあるらしい。『龍族の男が狐族の娘と結ばれることで、内なる力が覚醒する』、というな。どうじゃ、面白いと思わんか。」 祖父には、昔からこういうところがあった。興味のあることに対しては、子供のように目を輝かせてとことん探求しようとする――それに付き合わされる周りの王族たちは、さぞ苦労が絶えないだろう。 「面白いかどうかの前に、そもそも一族を超えた婚姻など、龍族の側でも前例がないのでは?そう簡単に決められることではないかと思いますが…」 ここで祖父は、大仰に腕組みをしてみせる。 「紅悠。前例がないからと尻込みしていては、何も始まらんぞ。やってみれば案外上手くいくかもしれぬではないか」 「…逆に、何か問題が起きてしまったらどうなさるのです?」 しかしこの質問については、祖父も想定していたようで。 「案ずるな。あちらの皇帝とも話をして、三か月の試用期間を設けることにした。」 「試用期間…?」 うむ、と祖父は自信満々に頷いて。 「確かにお主の言う通り、実際に結婚してみないことにはどんな問題があるかも分からぬ。そこでこの三か月の間に、この結婚がどれだけ有益なものか、確かめてくるのじゃ。」 勿論、伝承の真偽も含めての、と、祖父は片目を瞑ってみせる。 「…つまり、私は実験台ということですか」 半眼で尋ねる紅悠に、祖父はわざとらしく咳払いをしてから。 「兎に角、もうこれは決まった話じゃ。出立の準備も進めておる。お主は龍族に嫁に行くのじゃ。良いな」 こうなるとこの狐爺は、誰が何と言おうと聞く耳を持たない。それは紅悠も、嫌というほど分かっていた。 …と言った事情で、紅悠はやむなく、龍族の国へと旅立つことになったのだった。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

162人が本棚に入れています
本棚に追加