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南向きの縁側に面した明るい一室が、紅悠のために用意された部屋だった。
庭の風景を眺めつつ、紅悠は圭が用意してくれたお茶とお茶菓子に舌鼓を打ちながら、圭の話に耳を傾けていた。
「まったく、ごめんなさいね、愛想の欠片も無くて。悪い人じゃないんだけど、昔から仕事一筋で、他のことにまるで興味がなくてねぇ…」
先程から圭は、お茶をすすりながらぷんぷんと肩を怒らせている。紅悠はふるふると頭を振った。
「いいえ。旦那様も、うちの祖父のせいで厄介ごとを押し付けられて、ご迷惑でしょうから…」
「あら?今回の婚姻、言い出しっぺはこちらの皇帝だって聞きましたけど?」
「そうなんですか?」
意外な事実に、紅悠は目を丸くする。
龍族皇帝とは一言二言挨拶を交わしただけだったので、どんな人物か計り知ることは出来なかったが――まあ、あの祖父と長年友人関係を続けているような人物だから、恐らく似たような思考の持ち主なのだろう。
「それに一番迷惑被ってるのは、紅悠様のほうだわ。突然結婚を命じられたかと思えば、嫁ぎ先はこんな田舎だし、旦那はあんなだし…私もう、紅悠様が気の毒で…」
「いえ、私が元々住んでいたのも似たような場所ですし、狐族でも私は厄介者扱いでしたから」
涙を浮かべてみせる圭に、紅悠は慌てて首を振る。すると圭は、そんな紅悠の手をしっかりと握って。
「紅悠様、私に出来ることがあれば、何でもおっしゃってくださいね。私はいつでも、紅悠様の味方ですから。」
「…ありがとうございます」
圭に向けて、紅悠も安堵したように微笑んだ。
「あの…では早速、ひとつお願いしてもよろしいですか?」
「はいはい、何でしょう?」
おずおずと尋ねる紅悠に、圭は顔を輝かせる。
「龍族のことを教えていただきたいんです。仮にも私は、王族の妻ですから…相応の知識を身に着けておきたくて」
「まあまあ…何て、健気な」
そう言って再び目を潤ませる圭。すると、そこへ。
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