162人が本棚に入れています
本棚に追加
「御免下され。首長殿はおられますかな。」
玄関先から聞こえたのは、歳を重ねた男性の声だ。
「あら、ちょうどいいところに来たわね。紅悠様、ちょっとお待ちくださいね。」
圭はそう言って立ち上がり、いそいそと部屋を出て行った。
少ししてから、圭に伴われて部屋に入ってきたのは、顔中に深い皺を刻んだ精悍な男性だった。
「紅悠様にも、紹介しておきますね。村の組頭で、“弦”さんっていうの。律様のお世話係ってところかしら」
「圭殿、ワシは首長の補佐役であって、お世話係では」
弦は圭に向けて顔をしかめてみせてから、紅悠に向き直って一礼する。
「お初にお目にかかります、紅悠殿。以後お見知りおきを」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
紅悠も深く頭を下げた。
「ねぇ弦さん、紅悠様が龍族のことを勉強したいんですって。私、弦さんが先生として適役だと思うのよ。」
「やや、ワシは首長殿から租税資料を預かって、王宮に届けなければ…」
眉を曇らせる弦だったが、圭はからからと笑って見せると。
「どうせまだまだ出来やしないわよ。待ちぼうけ食らってる間に、ね?」
「…やれやれ。仕方ない、書類が出来るまでの間だけですぞ」
渋々ながらも頷いた弦に、紅悠は再び、よろしくお願いしますと頭を下げた。
最初のコメントを投稿しよう!