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四方を山に囲まれた、広大な山岳地帯一帯が、龍族の国土だ。
古来より龍族は、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七つの王家に分かれている。
国のほぼ中央に位置する王都を取り囲むように七王家の領土が広がっており、各々がいくつかの村を抱えて領土を管理している。
王族間では狐族と同様、激しい権力争いが巻き起こっているらしい。七王家の領土は、以前は王家ごとにある程度まとまっていたが、近年の領土争いでだんだんと入り組んできている、とのことだった。
血筋のためか霊気の気質によるものか、王家によって一族の性格には一定の傾向があるようで、藍龍族の民には争いごとにいそしむよりも、事の真理を追究するような洞察力の深い人間が多いという。
「要するに、偏屈な人が多いんですよ。律様は仕事の虫だし、弦さんは武道のことになると、寝食も忘れて修行に打ち込んじゃうんだから」
台所で夕餉の支度をしながら、圭が溜息を吐いた。
その隣で紅悠も、くすくすと笑いを零して。
「藍龍家の方は、皆さん努力家なんですね」
日が西に傾き始めた頃、ようやく律から書類を受け取った弦は、馬を飛ばして王宮へと向かっていったが、それまでの間は紅悠に付きっ切りで話を聞かせてくれた。
「それにしても、紅悠様に夕飯の支度なんてさせてしまって、ごめんなさいね。小さな村だから、首長の家でも私くらいしか使用人がいないんですよ。」
「いいえ。ここでお世話になる以上、出来ることは自分でやって当たり前ですから」
そう言って微笑む紅悠に、圭もほっと胸を撫でおろす。
「お嫁に来てくださったのが紅悠様で、本当に助かりました。律様も、自分じゃ家のことなんて何ひとつ出来ない方なもんでねぇ…」
包丁を動かしながら、圭が溜息を吐いた。
「実は私もこないだ、初孫が産まれたばかりでしてね…ただでさえ家の中が天手古舞で、でもだからと言って、律様をひとりで置いとくのは心配でねぇ」
「まあ、それなら、どうかご無理はなさらないでください。この家のことなら、これからは私がやりますから」
紅悠が言うと、圭の瞳がぱっと輝く。
「本当ですか?私もここでの仕事をもう少し減らしてもらえるなら、とても有難いわ。…そうね、朝は少し遅く来て、夕方には少し早めに帰らせていただければ…」
「分かりました。朝と夕方のお仕事を、教えていただけますか?」
紅悠の言葉に、ほくほくしながら頷く圭。夕飯の支度を終え、紅悠のために翌朝の仕事内容をまとめた書き置きを残した後、圭は足早に自宅へと戻っていった。
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