Ⅱ 十七年前の悲劇

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Ⅱ 十七年前の悲劇

 今から十七年前、すべての国にとっての大事件、『星の爆発』が起こった。空にある星が一つ残らず砕け、破片となって街に、人々に降り注ぐ。この事件により、世界から星空が消えうせたうえ、国々は大きな被害を受けた。  建物は瓦礫と化し、幾人、幾百もの命が亡くなり。あらゆる機関がストップしたばかりか、築き上げてきた文明も、根こそぎ消え去った。  しかし、それらよりも大きな被害がある。  人々は、希望を失った。  当然である。家族が、友達が、当たり前にいた近所の人々が、あっという間に冷たくなる、そんな経験を、人種や男女、大人子どもの分け隔てなく、全員が経験したのだ。  人々は美しさを求めた。地獄絵図のような地上には、美しいものは何も残っていない。天を仰いでみても、星はなく、月だけがひとつ悲しく、黒い夜空にぽっかりと浮かぶのみ。  そんな人間たちの願望が形になった。それこそが、ジャフリー工房でも作っている、人口の星である。  最初は、ごく小規模な活動だった。しかし、だんだんと、その美しさは人々を魅了していった。  偽物でもいい。偽物でも構わないから、希望が欲しい。やがては王女や国王など、高貴な身分の者たちまでもが、星を望むようになっていた。  その作り方もまた、多くの人に受け入れられた理由であった。そこかしこに散らばっている、降ってきた星の破片を原料とし、それらを加工していく。ただ、加工の工程に少々難があるため、誰でも作れるというわけではなかった。  それでも、もう二度と職場が返ってくることはない者、何をするでもなく、絶望にのみ打ちのめされている者が、何かをしたいという想いと共に活動し始めた。彼らはそのうちに、星職人と呼ばれるようになった。  復興してきた数々の町に、少しずつ少しずつ、しかし着々と、星工房ができていった。温かく、しばらくの間目にすることの叶わなかった星の光は、仮に人工物であったとしても、人々の心を救った。  ジャフリー工房も、そんな星工房の一つである。そしてネトラは、女将のミーシャを除き全員が職人であるこの家族の中に、唯一紛れ込んだ「出来損ないの職人」なのだ。
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