壱:おしゃべりな水飴

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「えーと、お友達……みたいなもんだよ。うん」 不本意な気持ちが滲み出て顔がものすごく引き攣ったが、しかたがない。今は、柚子に安心してもらうのが第一優先。そのためなら、おれは大人としての理性を総動員して、隣でにまにまとムカつく笑みを浮かべながらおれの動向を見守っている災厄を、「トモダチ呼ばわり」するくらいの苦行には耐えてみせる。 「くく……っ、おれたち、トモダチだったんだな」 「黙れ。おまえが知らないうちに、この空間では天敵のことをそう呼ぶようになったんだよ」 「照れんなよ、おれのトモダチのあさひくん♡」 柚子には聞こえないよう、小声で不穏なやり取りをするおれ達を、柚子は何度か見比べて、それから納得したように小さく頷くとやっと脚を踏み出し店の中に入ってきた。 「今日はひとりか?」 「うん……。あの、湧太が今度、あさひさんの店に行こうって言ってくれて……」 「あぁ、……たまには菓子食べに来いよって、おれが誘ったんだ」 本当はその前に、他でもないこの柚子が「元気がない」と湧太から相談を受けたからなのだが、さすがにおれがそれを本人に伝えるのは無神経だろう。有楽のいる方向に「余計なことを言うな」というオーラを発しながら、おれは柚子に向かってへらりと微笑んだ。 「……あの、湧太は、おれのことを心配してくれてるんじゃないかって……思って」 「へ?」 まさに核心をつく柚子の言葉におれが目を瞬くと、柚子は逡巡するような間の後に、大きな瞳をきゅっと見開き、一歩前に出ておれを見上げた。 「お、おれ、湧太以外の子とうまく話せなくて。……友達も、全然できなくて」 「……そうか」 「湧太は、勉強もスポーツも得意で、元気で優しいから、本当はいっぱい友達がいるのに。……なのに、いつもおれと一緒に居てくれる。本当は、おれ以外にも湧太と遊びたい子がいっぱいいるのに、なんか、湧太にも他の子にも、悪いなって……思って」 柚子が、こんなに話すのを初めて聞いた。決意が揺らがないうちにとでもいうように、早口にそう話しながら、それでも柚子の声はだんだん小さく、力を込めていたはずの瞳は少しずつ俯いて、足元に落ちてしまう。おれは柚子に視線を合わせるように、ゆっくりとしゃがみ込んだ。
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