零:和菓子屋奇譚

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「……何しに来たんだよ」 端的にそう呟き、少し上の目線の男を睨みつければ、相手は大げさに呆れたような仕草で肩をすくめた。 「何しに? 、コン。馬鹿なおまえはそんなこともお忘れか?」 「……忘れてねぇよ。来たのかって聞いてんだ。いっつも突然いなくなったり、現われたりしやがって」 ついつい噛みつく声が低くなる。喧嘩三昧の日々から足を洗ってずいぶん経つけれど、こういうときに反射的に威嚇してしまう癖は、この男相手に限り治らない。こじんまりとした街はずれの和菓子屋とは思えない、ピンと張り詰めた空気がおれ達の間を冷ややかに通り抜ける。せっかくいい具合に仕上がった春の新作がこの乾燥した空気に中てられてひび割れてしまいそうだ。 おれは落ち着かない気持ちを抑え込んで、そっと丁寧な手つきで蒸しあがった団子をショーケースに並べた。 「新作か?」 おれの言葉は華麗に無視して、男はショーケースの団子を眺め、印象的な目元を細める。少し柔らかくも見える表情だが、今までの付き合いから、おれの警戒心はそう簡単に解けない。 こいつは、たしかにこの店の店主で、つまりはおれの雇い主でもある。しかしおれにとってはそれだけじゃない。おれたちの関係性にごくごく一般的で、端的な言葉を無理やりあてはめるとしたら、「昔馴染み」か、もしくは「腐れ縁」。実際はもっと頼んでもないオプション付きで、奇妙で、ねじれていて、厄介なものなのだけれど。 「……そうだよ。団子と饅頭の間みたいな食感を目指した。色も、ヨモギの新緑と桜のピンクだ。祝い事にぴったりだろ」 三食団子よりも淡い色彩で、柔らかく上品に色づいたその団子は、少し大ぶりで存在感がある。口当たりはどちらかと言えばさっくりとしていて、甘さも控えめに仕上げている。その代わり、中には桜の塩漬けをアクセントにした蜜が少し練り込まれているのだ。
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