零:和菓子屋奇譚

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「無いセンスを絞って考えてるじゃないか、偉いぞ」 嫌味な感想を告げながら、男はカウンターの内側に長い腕を伸ばし、ひょいと団子を摘まみ上げた。 「こら、つまみ食いすんなよ!」 「つまみ食い言うな。店主のチェックも受けずに商品を並べられると思うなよ」 ふん、と鼻で笑い、そいつは情緒もへったくれもない大口で繊細な和菓子を齧る。相変わらず見目は良い男なのだが、それ以外はすこぶる雑だ。動作も、言葉も、精神構造も。 「何が店主のチェックだよ……。半年近くも行方知れずでほっつき歩いていたくせに」 「なんだ、寂しかったのか? しばらくは一緒に居てやるから、むくれるなよ」 「誰が……。おれの平穏な日々の邪魔をするな」 呆れといら立ちを隠しもせずに声に混ぜ、真正面から睨みつけて反論すると、相手はにんまりと口角を上げた。おれがこうやって噛みつくことも想定内というように、なんなら期待通りとでもいうように。見透かすようなその表情が、シンプルに腹立たしい。 「コンも『平穏な日々』を愛せるようになったんだな。喧嘩しか能のなかった荒くれ少年が」 「……うっさい。いつの話してんだよ」 「そこまで昔話でもないだろう」 「おまえにとっては、な。おれはこう見えて普通の時間の流れを生きる、普通の人間なんだよ」 「えらく棘があるな。ところで、この団子の感想だが」 可笑しそうに目を細めておれを眺めていた男は、もしゃもしゃと咀嚼していた団子を飲み込むと、笑みを深めた。
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