3 文化祭の朝

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(えっ、佐久間さん!)  窓辺に椅子を置き、顔を下に向け、何かを見ている。手元にあるのは、出来上がったばかりの部誌『みなみくらの風』だった。今日と明日販売する、部員みんなの力作でいっぱいの最新の部誌である。  その時、 「よう、西村!」  いきなり後ろから同級生の友人に肩を叩かれた。おっと声を上げてパーティションから離れる宏。 「おまえ、何やってんだよ。ここ、おまえの部の場所だろ?」  と笑いながら挙動不審の宏をいじる友人。 「い、いやいや。今入ろうと思ったところだよ。おまえこそ早いじゃん」 「おう。俺も最後の準備で大忙しだ。部の準備がまだ終わってなくてな。おっ、あと一時間半しかない。急がねぇと。じゃあな!」  と笑いながら去っていく友人を見送り、宏はそっと控室へ入っていった。視線を上げ、宏を認めてびっくりした表情になる理恵子。しかしすぐに微笑みに変わり、 「あっ、先輩! おはようございます!」 「おはよう。早いね。どうしたの? こんな早く」 「はい。ここで静かに部誌が読みたくて。先輩は?」 「俺もだよ。佐久間さんと同じ」 「ええ、そうなんですか?」 (嘘ばっかり)  と心の中で自分に突っ込みながら、 「理恵ちゃん……って呼んでもいいかな?」  慣れない女の子との会話に、ぎくしゃくしながらも勇気を振り絞って聞く。 「はい、どうぞ。許可します」  それに、ちょっといたずらっぽく笑って返す理恵子。 「ありがとう。じゃ、さっそくだけど、理恵ちゃんの詩、良かったから。今朝一人でもう一度ゆっくり読みたかったんだ」 「そうなんですか? 嬉しい。ありがとうございます! でも、先輩のこの小説もすごくいいですね。感動しちゃいましたよ」  目を細めて小さく頭を振りながら言う理恵子の黒髪が、朝日にきらめいて美しい。
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