死んだねこが連れてきた女の子

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 僕は、今年20歳になる大学生だ。なんと、生まれて初めて、可愛い彼女ができた。「ハル、また会えたね」-私だけの秘密の恋だった。  10年前の4月、当時餌付けして可愛がっていた野良猫・ハルは、僕の家庭訪問の日に、片足をけがして、家にやってきた。家の外の側溝を這って、家まで来たらしい。母に頼んで、すぐにハルを病院へ―。僕は、家庭訪問に来た担任の先生に事情を話すのが精一杯。その日からハルは、僕たち家族の初めてのペット、いや、6人目の家族になった。  その後、僕に一番懐いてくれたハルを、本気で好きになってしまった僕。「ニャー」としか返事してくれないハルだったが、僕は彼女のように、何でも話すことができた。  ハルと過ごした日々は、とても思い出深かった。特に印象的だったのは、小学校での出来事。僕が、小学校5年生のある日、小学校に連れて行って、担任の先生に見せようとしたら、「猫アレルギーの人がいるから、やめて!」と、他のどうでもいい先生たちに怒られた。それでも強行突破して校舎内に入ろうとした僕をなだめて、一言、「この猫、かわいいね」と言ってくれた担任の先生。僕が教師になるきっかけを与えてくれた人だった。  そんなハルは、僕が大学受験に失敗し、浪人時代になってからも、僕を支えてくれた。勉強が忙しくなり、あまりハルのお世話をしなくなった僕は、ハルが病気になっていたことに気付かなかった-。大学入試センター試験を2日終え、希望の大学に合格できる確信が持てる点数が取れてることが分かった試験の翌日、ハルはこの世を去った。僕は初めての喪失感で、涙を流さずにはいられなかった。  4月、大学に入学した僕は、友人の頼みで仕方なく、ボランティアサークルに入団した。そこで出会ったのが、今の彼女・カナ。ハルがこの世を去るまでの間、女の子に振られ続けた僕。僕が好きになったカナは、偶然にも、昔から家で猫を飼ってきた猫好きの彼女だった。きっとハルが呼んだ出会いに違いない。  「また会えたね」  カナへの告白が成功した日、ハルへの感謝が胸をよぎった。もしかしたら、カナは、ハルなのかもしれない。そんなはずないのに、そんな気がしてしまう。  以来、カナとの出会いは、僕の人生を豊かに彩ってくれた。  そしてー。  出会って10年、カナは今、私の前で、笑顔に料理を作っている。そう、私の妻として。
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