後宮のいかさま男装占い師

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 髪を撫でられている。  それはひどく優しい手つきで、春燕は夢うつつに囁いた。 「……雪?」  手が止まる。重たい瞼をこじ開けると瑞薛がこちらを見つめていた。柔らかく体を包むのは瑞薛の牀榻だ。  春燕の口元に微笑が浮かぶ。 「もうずっと前に、私は雪と再会していたのですね」  瑞薛が決まり悪げに目を逸らす。 「騙していたようになって悪かった」 「そんなこと、いいんです。ずっと会いたかった……」  春燕は腕を持ち上げる。指先が触れる前に、瑞薛がその手を握りしめ唇を寄せた。まだ本調子ではないのか、雑音に遮られたように瑞薛の心は読み取れない。  だから、春燕は直接聞くことにした。 「あれからどうなりましたか?」 「仔空は流罪、俺の呪いも問題なく解けた。怪我も春燕のおかげでかすり傷程度。その代わりに、春燕は重傷で一週間も寝込んでいた」  じろ、と春燕を睨めつけ、それから耐えきれないように大きく息を吐く。手の甲を掠める吐息がくすぐったかった。 「……二度と目覚めないかと思った」 「私はそれくらいの覚悟でしたよ」 「よせ。俺の手から(さい)を奪うつもりか?」  強く告げられた言葉に、春燕は目を瞬かせる。瑞薛が真剣な眼差しを春燕に注いでいた。逃げるのを許さないというように、繋がれた手に力が込められる。  鼓動がうるさくて春燕は耳を澄ました。そうしないと瑞薛の声を聞き逃してしまいそうだった。 「今すぐという話じゃない。父の後宮も解体しなければならないしな。だが俺はもう、一人しか妻を持たないと決めた」  それが誰か、異能なんか使わなくたって、瑞薛の瞳が雄弁に告げている。  息を呑む春燕に、瑞薛が甘やかに笑いかけた。 「春燕。どうか、俺と共に人生を歩んでくれ」   春燕の答えは決まっている。震えそうになる喉を押さえて、必死に頷いた。 「——はい。燕も春燕も、ずっとあなたと一緒です」
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