後宮のいかさま男装占い師

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 園林の木にもたれて、春燕は両手で顔を覆っていた。引き結んだ唇から嗚咽が漏れそうなのをなんとか堪える。 (どうして下手人がいないの……⁉︎)  春燕の息は荒く、背中が波打っていた。喉の奥では血の味がする。 (全員! 全員の心を読んだのよ! 妃嬪や女官だけじゃない、宦官も、下男も、全員! 何百人も! それなのに、誰も呪いのことを知らない……)  ぐらぐらと視界が回る。煮え立つように眼球の奥が熱い。異能をこんなに使ったのは初めてだった。体はとっくに限界を迎えている。 (陛下のお役に立ちたいのに……何一つ、欠けさせたくないのに……だって、私は)  ゆだった頭でぼんやり思う。その先に続く言葉を探す。  だって——。  目を閉じると、後宮に来てから与えられたものが蘇る。それらは全部、温かいものでできていた。どれを思い出したって一筋の痛みもない。真綿で包むように、春燕が傷つかないように、慈しんでもらったのだ。  瑞薛の言う通り、大切にされていた。この上なく。 (ああ、私は、陛下のことを)  そのとき、声をかけられた。 「……燕どの? ここで何をされているのですか?」  うっすら瞼を上げる。そこにいたのは意外な人で、それから、彼の心をまだ読んでいなかったことに気づいた。 「少し体調を崩しただけです。すぐに戻りますね」  言って、春燕は何気なくその人に触れる。 (え……?)  その瞬間、春燕の意識は暗転した。
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