第一話 絶望の淵

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第一話 絶望の淵

 「私が国会議員になったら、皆様の力で当選できた暁には、この国を、日本を、変えます。今の日本にある嘘や偽り、悪事を全て、お天道様の下に、明らかにします。そしてこの国を正すのは、皆さんです。その旗振り役として、どうか、どうか、この青木に、清き一票をお願いします。」  「繰り返します。衆議院議員選挙長野一区の補欠選挙は、世直しを訴えて出馬した、青木隆治さん 47歳 が、初当選を果たしました。」  数か月後ー。  「青木くん。君はまだ青過ぎる。この国のことを、何もわかってない。」  与党幹事長の石川の部屋に呼ばれ、前に立たされた私。この国を変えたい一心で、夢にまで見た衆議院議員になった私は、長野一区の有権者との約束を果たす思いを強くした。私は、世の中の嘘や偽り、不正を晴らすため、議員のホームページに投稿箱を設置し、情報を集めた。すると、一件の投稿がー。  『長野五輪の誘致の陰に潜む石川献金の証拠』ーこのタイトルの文書をクリックすると、そこには、紛れもない与党幹事長 石川の不正献金の証拠があった。  「青いとは、どういうことでしょうか。」  私は、石川にそう問いかけた。  「青木くん、これは、必要悪だ。この献金ひとつで、長野市は、五輪を誘致できた。新幹線も長野自動車道も開通した。大規模施設が開業し、各種イベントを行うことが出来ている。全て、うまく行ってるんだよ。全て。だから、これは、必要悪だ。この献金が何だって❓なら君は、君の力ひとつだけで、長野に今の豊かさをもたらす力があるのかね❓企業には便宜を図る、庶民は生活が豊かになる、みんなが得をする政治をした私はむしろ、褒められる政策をしたと思わないかい❓」  「それは、そうですが、でも、不正献金は、いけませんよ。」  私はそう言い返すので、精一杯だった。すると石川は、机にある雑誌のゲラを2種類、音を立てて置いた。 「石川幹事長に不正献金疑惑」 ーこちらは、私が雑誌編集部に売り込んだ記事だ。なぜ石川が持っているのだろうか。 「青木議員を正す石川ー長野一区で選挙違反疑惑」 ー私が選挙違反だというのか。  「私がね、君に送ったウグイス嬢ね、良い声だったろ。でもね、彼女、ウグイス嬢になんかなれないの。雇っちゃいけない女の子だった。でも君は、私の支援だからといって、年齢も経歴も確認しなかった。身辺調査もしなかった。さあ、どうする❓未成年の若者を、ウグイス嬢として何日も雇って、その間、学校にも行かない状況にしたのは、君の失態だ。いつでも私は、この記事を世に出して、君を切れる。それでも君は、私を、陥れるかね。それとも、こっちの記事を取り下げるかね。」  「君は2度と、私を追い込むことはできない。そして、世の中には、追ってはならない必要悪はある。これを肝に命じることだね。」  二つのゲラをゴミ箱に捨てた石川は、私を目で、この部屋から追いやった。私は黙って、部屋から出るほかなかったー。「敗北宣言」を突きつけられたのだった。
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