山で

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山で

☆  話し合った結果、陣内達も青瀬も、サダカの家でご飯を食べて、そのまま泊まることになった。  マダムは料理を少し包んで持たせてくれた。陣内は気付にコーヒーを所望したが胃に良くないと断られ、代わりに梅干を口に放り込まれた。  青瀬の車は陣内が運転して、幽玄を乗せたサダカの車について行く。車内でラクトと青瀬は自己紹介した。 「ごめんね、変なことに、巻き込んで」 「いっいいえ!」 「ほんとにな」  ラクトの知らない、おじさんのラフな喋りだった。 「けどいいさ、これ以上ヒデェことにならなくて。お前も少し変わったな」 「え」 「そんな目にあってんのに、どっしり構えてさ。お前は昔から、腹さえ括れば馬鹿みたいに強かった。そういう所、ほんと叶わねぇ」 「え? そ、そうかな……」 「なんだ、もう元に戻っちまった」 「ええ?」  ラクトは、初めておじさんの爆笑を聞いた。  山の麓の安濃邸は、改築と増築を繰り返した古民家だった。古民家に泊まるのは、ラクトは初めてだった。  そして、サダカと養母は、大きなテーブルにたくさん料理を出した。トマト料理が多めだったが、見たことない料理もあった。紫色のトマトやミニトマトのピクルスに、ラクトは目を丸くした。  中年二人はお粥をもらった。  幽玄は、いつの間にか食卓からいなくなってた。  眠れなかった。  ラクトはひとり、縁側に座った。  庭の向こうに大きな温室が並んで見えた。あの中に植ってるトマトを、明日見せてくれるという。ワクワクする。 『……なんか』  ほんの数日前、女装をママに見つかって大騒ぎになったのがウソみたいに、いろんな事があった。  今日履いてたキュロットみたいなパンツを思う。駅のトイレで着替えてドキドキだったが、誰にも何も言われない。気が抜けた。 『けど…なんか…』  廊下がギイと鳴る。  榊幽玄が廊下の向こうから歩いてきた。
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