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「みちはな、初めて通るもので、その先になにがあるか分からねぇからみちって言うんじゃよ」
そう、おじいちゃんがおしえてくれた。
だから、わたしは前に広がる、みちのみちを歩いてゆくんだ。
*
「みち。今日はおつかい、行けるかな?」
お母さんに聞かれたけれど、わたしは目をつぶって首を横にふった。
「いやだよ、お外、こわいもん」
お外には何があるか分からないし、こわいし、出たくなんてない。それよりも、お部屋でずっとお人形遊びをしている方がずっとあたたかいし、楽しいんだ。
「やれやれ。みちは、こわがりねぇ」
お母さんはこしに手を当てて、困ったような顔をして笑った。
「分かったわ。その代わり、お家でいい子にしてるのよ」
「はーい!」
お母さんをお見送りして居間にもどってきたわたしを見て、おじいちゃんはにっこりと笑った。
「みち、こっちにおいで。みかんがあるぞ」
「あ、おじいちゃん。ありがとう!」
わたしはおじいちゃんのとなりにすわった。そして、いっしょにみかんを食べながらお話をした。
「……それでね、今日もお母さんのおつかい、行かなかったんだ」
「そうかい。みちは、おつかいに行きたくなかったのかい」
おじいちゃんは「おやおや」という顔をしてたずねたけれど、わたしは首を横にふった。
「ううん。行きたくないんじゃなくて……一人で行くのがこわいの。だって、スーパーに一人で行くなんて、初めてなんだもの」
「そうかい。みちは、初めてのことはこわいのじゃな」
おじいちゃんはやさしいおかおをしわだらけにして笑った。だけれども、おだやかなその目はわたしのことをまっすぐに見た。
「じゃがな、みち。生きていくということは、知らないことを知るということじゃし、それは初めてのことばかりじゃよ」
「えっ、そうなの?」
「そうじゃ」
首をかしげるわたしに、おじいちゃんはおかおをくしゃくしゃにしてうなずいた。
「みちも、すぐに分かるようになるじゃろうよ」
そう言って、白いまゆげの下の目をにっこりと細めた。わたしは、おじいちゃんのこのおかおが大好きだ。やさしくって、おだやかで、安心する。それに、いつも、とっても大切なことをおしえてくれるんだ。
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