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「おっと、いけませんな。この年になると、涙もろくなってしまって。
ともかくわしはここでお別れですじゃ。それではおふたりとも、どうかご達者で」
「ええ、御者さんもお気をつけて」
「さようならさようならー!」
私たちが別れの挨拶に応えると、御者さんは馬車とともに去っていった。
ここから先は私とペチュのふたりきりだ。
確か学園には寮があって、私たちはそこで生活することになるのだけど――。
「寮ってどこにあるのかしら?」
「えっとえっと、入学案内のパンフレットは持ってるよ。
でもでも、この学園って結構広いみたい。ここが正門だから、とりあえずまっすぐ行って……」
私はペチュの持つパンフレットを覗き込む。
そこには案内図が載っていたが、抽象的なイラストで位置関係が示されているだけで分かりづらかった。
「こちらの食堂のほうから回り込んだほうが近そうだけど、距離感がよく分からないわね。どうしようかしら」
私は悩みながら周囲を見回す。
すると、正門の陰に佇んでいた男の人が近付いてきて、こちらに手を振ってきた。無論、初めて見る人だ。
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