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いや、むしろ嫌味な家族から冷遇される日々から抜け出せると思うと、安堵するような気持ちが湧いてくるくらいだ。
たとえこの先、孤独が待ち構えているとしても構わない。私はただ平穏に暮らしたいだけなのだ。
自室に戻った私は父、――だった人に言われた通りに、旅行用の鞄に荷物を詰め込み始めた。
そうは言っても、持っていくものなどせいぜい着替えとそれ以外の日用品、それからお気に入りの小説くらいなものだった。
だって私にはどうしても手放せない"大切なもの"など、ひとつ足りとも与えられなかったのだから。
「……これは、どうしようかしら」
――コンコン。
私がとある本を手に取り、それを鞄に詰め込むか迷っていると、がらんとした飾り気のない部屋にふとノックの音が響いた。
「どうぞ」
誰が訪ねてきたのかは知らないが、別に誰でもよかった。どうせ誰であろうと、明日には全く無関係の他人になってしまうのだから。
「失礼させていただきますわよ、フローリア」
「ドロシーお姉様」
扉が開かれるとともに、鼻につく香水の臭いがきつく漂ってくる。
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